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2013.12.24(火)
真っ暗なステージに人が出てきた。
いいけど…さっきと演出が違うな~…と岳斗はつい職業柄の意識で見てしまう。
そしてステージがまだ真っ暗な中、ヴンとベースのグリッサンドの音がした。
ちょっと待って!
岳斗の心臓が大きく跳ね上がる!
今の音!これ!これ!って!
ぱっとライトが明るく照らされるとキヤーーーーーー!という黄色い歓声と一緒にドラムとギターの演奏始まった。
嘘!
ぶわっと岳斗の目に涙が浮かんできたけど慌てて両手で拭った。
ダメ!泣いてたら勿体無い!
ステージに立っていたボーカルはタカ先輩、ギターは尚先輩。
ドラムはエール・ダンジュの工藤さんだけど…でもLinxだ!
そして曲も!
二度と聞く事はないんだろうと思っていたLinxの曲だ!
千尋先輩!なにしてるのぉ~!
目が潤んだまま千尋先輩を見れば千尋先輩が岳斗を見てにやりと笑った。
タカ先輩のちょっと掠れた声。でも高校の時よりずっと色気増しててエロい感じに聞こえる!尚先輩のギターも!ずっとずっと音が綺麗になってる!
そして千尋先輩のベースがすごく嬉しそうに鳴っている。
嬉しそう、楽しそう、……そして切ない。
拭っても拭っても溢れてくる涙に苛立つ!だってこれ!絶対に目に焼き付けておかないと!
黄色い悲鳴もLinxの時みたいだ。
チヒロー!って呼ばれている声も!…ばれてたんだ。当然だろうけど!
タカー!ってのもある。ってことはきっとタカ先輩のバイトの時に来た事あるお客さんだ。
千尋先輩!千尋先輩!
もう!いっつもサプライズで驚かせてばっかり!
計画してたわけじゃないよね?
だってベースが千尋先輩のベースじゃないし…!今さっき三人で話して急に決めたの?
……すごすぎでしょ!
…尚先輩も曲忘れてない?…弾いてたの?タカ先輩も…。歌詞覚えてるの…?
ドラムはどうして分かるの?知らないはずなのに?
岳斗の中が疑問符だらけだ。
千尋先輩がドラムの方を見ながら演奏し、目で合図を送ったりベースのネックでなんか指示出してる?
なんかもう頭がパニックを起こしてる。
だって…高校の頃のライブに行ってた時みたいだ!
グリッサンドから入った曲は岳斗が好き!と言った曲だ。何曲するの?ああ!終わらないで欲しい!
「即席バンドです。有名人も混じってますけど…」
タカ先輩が1曲を歌い終えてMCを入れるとまたきゃーという悲鳴と千尋先輩を呼ぶ声。
「夢のライブですから内密に」
タカ先輩が人差し指で口を抑える仕草をすると笑いが起きる。
「世には発表されない曲です。レアな瞬間に立ち会えたここにいる人達にクリスマスプレゼントのつもりで」
そう言ってタカ先輩がドラムに視線を向けると工藤さんがカツカツとスティックでカウントを取る。
どうしよう…もう…本当に…。
やっぱりいいよぉ…。
分かる!バンドとしてはエール・ダンジュの方が勿論凄いっていうのは当然だと思う。
でも!やっぱりいい!やっぱりLinxが好きだ!
お客さんだって、知らない曲なはずなのに、ちゃんと聴いてリズムとってノっている。さっきまでのインディーズのバンドとは大違いに盛り上がっている。
何曲するのかな?
もうずっとドキドキと目が潤んでるのが治まらない。
じっと千尋先輩を見つめて、千尋先輩が視線を返してくれるのが嬉しい!
やっぱりライブハウスの狭い所っていい!目の前で千尋先輩の弾く姿が見られてこうして視線を絡める事ができるんだもん!
岳斗は胸に下がったままの千尋先輩から貰った十字架のネックレスをぎゅっと掴んだ。
また1曲が終わってしまう!
そしてもう1曲…?
あ…!
ドラムのフィルイン!この…曲!
尚先輩のギターが優しい音でタタタのリズムを刻んでいく。
嘘!ほんとに…!?
ライブではたった一回だけの曲だったのに!
千尋先輩のベースが深い音を鳴らしている。前よりも…あの時よりもずっとずっと切ない深い音…。
そして盛り上がっていた会場がLinxのラストライブの時と同じように歓声が段々と静かに消えていき、そしてしんと静まり返った。
タカ先輩のちょっと掠れた声が、欲しいと訴えるその歌の歌詞にぐっと心が締め付けられる。
尚先輩のギターもずっとずっと深いいい音になってる。コードの間違いもなくて…これじゃ文句つけられないよ!
千尋先輩…クリスマスにまた一つ忘れられない事が増えたよ…?
あと何回増やしてくれるの?
いつもいつも驚かせられて泣かせられて…。
そして終わった後は抱きしめてくれるんだ。
タタタターン…とギターのアルペジオで演奏を終え、その長く響く尚先輩のギターの音が消えるとステージのライトが真っ暗に落とされた。