やっぱ久世さんは気の迷いだったのかなぁ~…
相変わらず行き帰りは一緒。優しいも一緒。
ベッドも中央。
………なんだけど、…ホントそれだけ…。
キスも…翌日以降はなし…。
だよな…、とは思う。
男となんて…って言ってたし。
きっとあん時は溜まってたんだ。だってほら碧がいつでもいる状態だったし、一人で処理だってなかなかできないだろうから。
だから、だ…。
でもいいんだ。それでも碧はやっぱり久世さんを好きだと思えるから。ちょっとの言葉や態度が嬉しいから。
切なくて苦しい時もあるけど。それでも好きって気持ちはどうやったって治まりそうにないから。
こんな気持ちなんか初めてで自分で自分が抑えきれない感じもするけど。
ちょっとの事でもどきどきして大変なんだけど、そんなの碧だけのことだ。
前の時みたいに触られるのが嫌そうとか、そんなのは全然見えないから、拒絶されていなければ平気だ。
平気だけど…やっぱ優しいし、どうしても期待したくなっちゃう…。
「仕方ねぇよな…」
「何が仕方ない?」
思わず声に出てしまっていたのに久世さんがすかさず突っ込んできて慌てた。
一緒に並んでテレビ見てたんでした!
「あ!なんでもない!…です。あ、休み!今週はダメだけど来週の日曜日は取れた」
「そっか。じゃあ買い物に行こう」
「…う…ん……」
「碧は…いらない?」
「え?あ、…そうじゃない…けど」
だって久世さんちに…ってのがどうしても引っかかってしまう。
「ああ、それと今週の土曜日の夜は飯の支度はいいから」
え?………もしかして由紀乃さんと…?
ずきんと碧の心が苦しくなった。
この前の土日も出かけてないはずだから…。
「パーティーがあるんだ。俺は出たくはないが…頭取のお供だ…。うちの支店長が余計な事言うから俺まで巻き添えだ」
…なんだ、違った…。デートじゃないんだ、と碧はほっとしてしまう。
「……碧…」
思わず安心して息を吐き出すと久世さんがそっと手を伸ばしてきた。
「ちゃんとする…」
「ちゃんと?」
何が?
ついと碧の頬を手の甲で久世さんが撫でるのにきゅっと目を閉じた。
でもすぐに久世さんの手が離れるのが寂しい。
…寂しいじゃないだろ!
だから期待しちゃいけないってのに!
……だって一緒にいるのにどうしたって思いは久世さんに向かっていってしまう。
…苦しいな……。
好きなのに苦しい…。
「シーナ!昼休み長めでいいからディスプレイで使えそうなの100均で買ってきて」
「はい。いいっすよ」
店長に言われて碧は店を出た。
リボンとか、使えそうなものを見繕って、買い物を終え、店に戻る途中喉が渇いたので缶コーヒーを買って公園でベンチに座ってちょっと休憩。
ちょっとだけで、すぐ行こうと思ったのに深刻そうな男女が話をしながら近づいてきて立つに立てなくなって仕方なく携帯を出して弄くるふりをする。
なんだろ?と思わず顔は伏せたまま耳を傾けた。
「あの男は何とも思ってないだろう」
「いいの!」
「それじゃ幸せになんかなれない」
「そんなの分からないでしょう?今はそうでも変わるかも…」
「寂しい思いをするのは目に見えているのに!」
なんだろ?思わずちらと目を向けると女の人の方と目が合ってしまった。
「あ………」
思わず声が出てしまった。
……由紀乃さんだ。一緒にいるのは幼馴染といった男の人。
…という事はあの男って久世さんの事か?
「あ……」
由紀乃さんも碧を見てすぐに分かったのか声を出した。
すると碧に背を向けていた男の人も碧を見る。
………なんでここで俺が会わなきゃないの…?
知らん振りして逃げたい。
「あなた、優眞さんといた…」
「……ども…」
由紀乃さんから声をかけられて仕方なく碧は頭を下げた。
「あの、俺、仕事途中なんで…」
座ってコーヒー飲んでて仕事中も何も…って感じだけど、そそくさと碧はその場を後にした。
なんで疚しい気になるのかな…。
そしてどうやら由紀乃さんは久世さんの事好きなのだろう。そりゃそうだ、と納得しちゃう。
そしてあの男の人はきっと由紀乃さんが好きなんだ。
さらに碧も久世さんが好きで…。
碧の頭の中に相関図が浮かんでくる。
そこに社長は碧にちょっかい出してきてて。
矢印があっち向いたりこっち向いたり…。
久世さんの矢印はどこ向いてるんだろう?碧の事は好きとは言ってくれたけど、戸惑っていると言ってた。
どうしたって相互ハートにはなってない…。
相互ハートになったとしたってお見合い相手の由紀乃さんがいるんだから。
「……そううまくいかねぇっつぅの…」
碧は空き缶を公園のゴミ箱に投げ入れて店に戻った。
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