華やかな雰囲気の碧は目立っていた。
すぐに久世も碧の存在に気付き、つい視線は常に碧の姿を探していた。
明るい髪の色で目立つけれどそれだけじゃない。
一緒にいるのはモデル出と碧が言っていた社長で確かに目立つ。だがもう一人会社の人がいるらしいのに久世も安心してしまう。
安心はしたが、どうしてもハラハラして落ち着かない。
だいたい碧はあの社長にあんなキスマークつけられることをされているのに無防備すぎだろう!
イライラと苛立ちがおさまらない。
「久世君?どうかしたのかね?」
「あ、いえ…なんでも」
苛立ちが表に出てしまっていたのに久世は苦笑した。
苦笑しながらもどうしても碧に視線はいってしまう。
あ、ほら、どこかのオヤジが碧に触れている。
またイラっとしてどうしても碧を凝視してしまうと、碧が顔をこっちに向けた。久世が見ていたのが分かったのか嬉しそうににっと碧が笑いを浮べるのに笑顔はしまっとけ!と言いたくなってしまう。
今ここから離れて碧の所に行けるのならばすぐに行ってそう言うのに!
もしくは帰っていいのなら速攻碧を連れて帰るのに!
どうにも不特定多数の前でにこにことしている碧にまで苛立ってきてしまう。
…やっぱりどうしたってこれは独占欲でしかないだろう。
自分は狭量じゃないと思っていたはずだが、どうにも碧に対してだけは違うらしい。
今まで付き合ってきた彼女にだってこんな事思った事などなかったのに…。
まだパーティーは始まったばかりで自由が利かないがしばらくすればもう少し自由になるはず。そうなったら碧の傍にいって注意しなくては、と思いながらやっぱり碧に視線が向いてしまう。
…抱きたい…。
毎日碧が隣にいるのに手を出せない状態がツライ。
それは自分が悪いのだが…。
やっぱりお見合いなんて断っておけばよかったんだ。あれの所為でどうにも碧にも後ろめたくて手が出せなくているんだから。早いとこ断ってしまわないと。それでもし勤めも居辛くなったら辞めればいい。
碧が去ってしまうことは考えられなかった。
会社なんて探せばいいことだ。碧は去ったら二度とは戻ってこないんだ。
出て行かなくていいようにと碧の物を増やそうと声をかけたがどうも碧の反応がよくない。……出て行くつもりなのだろうか…?
いや、今の状況を思えば碧はそう考えているのかもしれない。
好き、とはにかんで碧に言われた時にはどうしようもない歓喜が浮かんだが今週は何も言われていない。でも碧の態度が雄弁に語っていたのでそれを疑う事もなかったが…。
とにかく頭の中が碧の事でいっぱいで、由紀乃さんの事はどうやって断ろうか、それしか今週は考えてなかった。
支店長が下手につついてくるのが本当にやめてくれという感じだ。
先週も由紀乃さんから誘いはあったが断って、明日も断ってある。
だが会わないからお見合いの話が流れる、ということはないし、きちんと断るならそうすべきだ。
そうじゃないと碧に心おきなく手も出せない。
心情的にはもう碧にしか向いていないのに、煩わしい事だ。
家に帰れば隣にいるのに。
ちょっと手を伸ばせば腕の中に捕まえられるのに。
「芹沢君!」
「お世話様です」
芹沢…?
いつの間にか目の前に碧の会社の社長が立って頭取に挨拶していた。
芹沢…どこかで聞いた名だ、と考えていると碧が火事にあった次の日に碧の携帯にかけてきた名だと思い当たった。
社長が芹沢だったのか…。直接携帯にかけるくらいで、しかも碧の口調を思い出すとただの社長と部下というのには砕けすぎている感じがする。
身長は自分と同じ位だろうか…?
でも華やかさでは勿論モデルをしていたと碧が言っていた位で人目を引く。
名刺を出して交換するとその碧の会社の社長が鋭い視線で久世を見ていた。
「久世…?」
「はい、久世 優眞と申します」
支店長が揉み手をするようにうちをご利用いただきありがとうございますなどと告げていたが、その芹沢の視線は真っ直ぐ久世に向かってきていた。
なんだ…?
そしてふっと鼻で笑われたのにむっとする。
すると久世の顔を見ながらすっと芹沢が顔を久世に近づけてきた。
「……腰のホクロは見たか?」
久世の耳元に小さく芹沢が囁いた。
「…は?」
なんの事だ…?
腰のホクロ……?
久世にだけ聞こえるように小さくそう一言だけ告げて芹沢は薄い笑いを浮かべ頭取に挨拶して去って行った。
…………もしかして…碧の事…か…?
腰のホクロ…?久世は見ていない…。
口を押さえ考え込み、去っていった芹沢の後姿を視線で追った。
テーマ : 自作BL小説
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