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月からの甘い誘惑 59

 「シーナ、飲み物だ」
 「ありがとうございます」
 どこかに行っていた社長がグラスを手に戻ってきてそれを受け取る。
 「酒…仕事中にいいの?」
 「構わん」
 ただ酒飲めるなら、と碧はくいと渇いた喉を潤した。
 けどすきっ腹できゅうっと酒が効いてくる。
 すきっ腹はまずいかな、とちょっと思うが暑くて喉が渇いていた。
 さっきまで引っ切り無しに人が寄ってきて質問攻めにあっていたのが波が引いたので碧は視線をまた久世さんに向けた。

 ……あれ?
 久世さんがこっちを見ているけれどなんかさっきまでと雰囲気が違う感じがする…。
 どうしたんだろ?
 「シーナ」
 その碧の視線を遮るように目の前に社長が立った。
 邪魔だなぁ…と思わず思ってしまう。

 「帰り送っていく」
 「いいです~。いりません」
 専務の姿が近くになかったので碧は軽口で答えた。
 「ふん。あの男か」
 「は?」
 「お前がちらちらとずっと見ている男だろう?久世といった」

 「ちょ!なんで!?」
 「お前が久世ってヤツの所にいると言っただろうが。今さっき名刺貰って来た。銀行…店で利用しているな。あそこの銀行とは取引辞めてやろうか」
 「………ナニソレ?」
 名刺貰って来たぁ?何?久世さんとこ行ってきたんだ?わざわざ?
 「………余計な事してきた!?」

 「余計?」
 ぴきっと社長が眉を跳ね上げた。
 「……とにかく、帰りはいいです」
 「…ふん」
 何言ってきたんだろう?なんか久世さんも社長の事はかなりよく思ってないみたいだし…。
 いつも社長が、って言葉を出しただけで久世さんの顔が渋面を作るんだ。
 でもそれがもし碧のされた事を考えて嫌になっているなら嫉妬という事になって、嬉しくて仕方ない。
 それが見えるから碧もわざと口に出してしまうのかもしれない所はある。

 けど、それはこの間の事でその前の事は久世さんに知られちゃダメだと思う。
 酔っ払って気付いたら男に抱かれてました、それが社長です、なんて…。
 絶対呆れられて嫌われるだろう。
 久世さんが怖い顔になっている気がしてならない。離れているからあんまり見えないけれど。

 「……社長…なんか余計な事…言ったりした?」
 「いいや。別に。…ほら喉渇いているだろう?」
 飲み物を運ぶギャルソンからグラスを取って碧に渡してくれる。
 確かに喉は渇いてるけど…。
 これ以上聞いても社長は答えてくれなさそうなのに苛立った。
 何か言ったのか、久世さんに確認したい。
 近くに行きたい…。でも行く事が出来ないのがもどかしい…。
 碧はマネキン役で、ちょっと目立つし、それで久世さんの所に行ったら、久世さんも上司がいるのだから困るだろう。

 「追い出されたらウチはいつでもいいぞ?」
 くすっと社長が薄く笑いを浮べて満足そうに言ってきたのに碧はぎっと社長を睨んだ。
 絶対なんか余計な事言ってる!
 はぁと碧は憂鬱になった。
 「………そうかもね…追い出されるかも…」

 さすがに…。
 他の男ともしたことあります、なんて…。
 さっきまではこんな碧には別世界のパーティーなんて早く終わらないかなと思ってのにこうなってしまうと久世さんと会うのが怖くなってくる。
 本当に過去の自分を消し去りたい気分だ。
 ぐいっと碧はグラスを煽った。

 …酔っ払ってしまおうか?
 いやいや、もしそれでまた社長が変な気を起こしたら困る…。そう思いつつもまた酒を煽った。ワインなんか飲みなれない碧の胃にきゅっと沁みてくる。
 食べ物も少しはあるけどまさかがつがつと卑しく出来ないし、ほんと困る。久世さんに何を言ったのか、久世さんがどう思っているのか、ちらっと久世さんの方を見るとやっぱりなんとなく怖い顔しているような気がしてしまう。
 遠目だからあんまりはっきりと分かるわけではないけれど。
 はぁ、と大きく溜息を吐き出した。

 「顔」
 社長に注意を受けてはっとやる気がなくなっていた顔に笑顔を貼り付けた。
 「タイ曲がってる。しゃんとしろ」
 「はぁい」
 仕方なく小さく返事すると社長が碧のタイに手をかけて形を整える。
 「あとはそこまで時間かからないだろう。あの男が帰る時に帰ってもいいさ」
 「え?そう?」

 ぱっと思わず顔が晴れるけど、でもとすぐに顔を俯けた。
 大丈夫なのかな…?
 「メール…してもいい?」
 「すれば?」
 碧は社長の手が離れてすぐに携帯からメールを打った。
 久世さん帰る時に一緒にもう帰っていい、って言われた、と送り、久世さんの様子を見ると携帯を出しているのが見えた。
 返事来るかな?とどきどきして待っていると、分かった、と一言返ってきて思わずほっとしてしまった。
 

 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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