はのんのBL部屋

　ところが久世さんはなかなか離されないらしい。
　ずっと上司の人と一緒に色々な人と挨拶している。
　分かったと返事は来たから多分一緒に帰っていいんだろうけど社長から何を聞いて久世さんがどう思っているかが気になって落ち着かずどうしても碧は酒に手を伸ばしてしまっていた。

　「シーナ？飲みすぎじゃないのか？」
　「飲みすぎ」
　社長がこそりと耳打ちしてくるのに頷く。
　もうかなりぽわんとしてきていた。
　だって気になって気になって仕方ないんだ。　
　久世さんに嫌われたくない…。
　前の時みたいに手を払われるような事されたらきっとすぐに逃げ出してしまいたくなるだろう。
　不安で仕方ない。

　隠してるのがいいのか、って言ったらそうじゃないけど、だからって嫌われそうなこと知られるのも嫌だ。
　思わず社長が恨めしくなる。
　「なんだ？」
　「余計な事言ったでしょう？」
　「ああ？」
　くすっと社長が笑った。なんでモデルでカッコイイはずなのにこんなに胡散臭く見えるのか不思議だ。いかにも何か企んでいます的な顔になっている。

　「そりゃあな。それでシーナが追い出されれば行くとこもなくなって俺の手元に来るしかないだろう？」
　「……………」
　ならないもん、と言いたいけど言えない。
　だって久世さんはちゃんと碧が好きなわけじゃないんだ。
　寝たのだって一度きりだし。…毎日一緒にいるのにキスさえしてくれてないんだから…。

　なんかだんだんと落ち込んでくる。
　そうだよな…。好きだったら、毎日すぐ傍にいるんだしキス位するよな…？
　それもないんだからやっぱり間違いだったと思ってる…？
　でも今日だって一緒に帰るって言ってくれた…。
　「……わかんねぇ…」

　小さく自分に向かって碧は呟いた。
　なんで好きって自分だけじゃないんだろう？
　自分だけが好きだったら簡単なのに、どうして欲が出てくるんだろう。
　どう思われてるのか、どう考えているのか全然分からなくて苦しくなる。
　それでなくとも考える事なんて苦手だし、人がどう思うかなんて考えたこともなかった。
　その場かぎりでよかっただけの自分だったから…。
　軽い事ばっかやってきてたから今苦しいんだ。
　自業自得って分かってるけど。
　早く久世さんの傍に行きたい。顔が見たい。
　でも嫌悪を浮べられたら…？　

　なんでこんなに臆病になっているんだろう？
　……そんなの好きだからに決まってるけど。
　がっと頭を掻き毟りたくなる。
　こんなに悩むなんて自分に似合わないって分かるけど！
　碧はぽやぽやしながらもまたグラスを貰ってワインをぐいと流し込んだ。
　かぁっと体が火照ってくる。

　「…暑い」
　「我慢しろ。…というか酒の飲みすぎだろう。部屋でも取るか？俺はいつでもいいぞ？」
　社長が碧の肩を組む様にして碧の耳元に囁く。
　「いやだ…。久世さんがいい…」
　意識がぽやっとしてきた。
　あ、…今の一杯はまずかったかも…頭がくらくらしてくる。

　「すみません」
　久世さんの声！
　「……なんだ残念…」
　くっと笑いながら社長が碧にだけ聞こえるように言った。
　「碧」
　ぐいと久世さんが社長を押しのけ碧の前に立った。

　「………酔っているのか…？」
　「…うん…」
　久世さんが心配そうにして碧の顔をのぞきこんだ。
　嫌がられてないみたい…と安心してへへと笑いを浮べると久世さんが碧の背中に手を伸ばして体を支えるようにしてくれる。
　「連れ帰っていいんですね？」
　「どうぞ？じゃあ、シーナお疲れ」
　「お疲れ様です」
　ある程度の時間がもう過ぎていたので注目を集める事もなく酔っていながらも碧は社長と専務に挨拶する。

　「…碧？大丈夫か？」
　足元がふらついたのに久世さんが碧の肩に手を回して体を支えてくれた。
　「久世さんの上司の人は？」
　「もう帰った。俺は自分で車で来たからな」
　普通に話をする久世さんにほっとしてしまう。なんだ、社長なんも言ってなかったのか、と安心した。

　「…飲みすぎだろう」
　「うん…帰り久世さんと一緒だと思ってたから」
　普通が嬉しくて碧はつい笑顔が出てしまう。
　よかった。なんだ、そんなに心配することなかったんだ。社長が意味深な事ばっか言うのに動揺してしまったけど、鵜呑みにする事なかったのに。
　やっぱなんでこう自分は単純でバカなんだろと思いながら駐車場に連れて行かれて久世さんの見慣れた車に乗りこんだ。

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続きに拍手コメお返事です^^
　　

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