また久世さんが休みでご飯の用意をしてくれていた。
「あのさ…別に俺必要じゃないよね…」
二人で仕事の時はしないけど、碧だけが仕事の時は久世さんが用意してくれる。それはいいんだけど、碧が作るものよりずっと本格的な料理だ。
碧のは炒めるだけ、とか和えるだけ、とか焼くだけ、とかそんなのばっかりで申し訳なくなってしまう。
今度母親に電話して和食の何かレシピ聞いてみようと密かに心に決める。
「そんな事はない。碧が帰ってくると思うから作っておこうと思うんであって自分だけだったらするか」
「…嬉しい。…それに…おいしい…デス」
…照れる。
なんで?なんかもう甘ったるくて仕方ない。
結構久世さんがぐいぐい来る人だったんだ…と慣れてない碧はどぎまぎしてしまう。
なんか心臓が飛び跳ねたり、ぎゅってなったり忙しいんだけど…。
今だって向かいに座る久世さんがじっと碧を見ている。
「……前に優しくしないで…って言った事があっただろう?」
「あ……」
小さく碧は頷いた。
「だ、って……俺…行くあてはないし誰も頼る人いなくて…久世さんだけが手差し出してくれて…心配してくれて…久世さんの傍は居心地良くて…優しくされたら…出て行くの…嫌になるな…って……。……あのね…俺、久世さんとこ来てからのほうがよく寝られるんだ。一人でいた時は…まぁ、アパートがボロだったってのもあると思うけど、ちょっとの物音で目覚ましたりとか、真夜中の変な時間に目覚ましてあと寝られなくなったりとか…そういうの…久世さんとこきてから全然なくて…」
「…安心して寝られる?」
「……うん」
久世さんが優しい顔で碧を見ていたのにまた照れくさくなる。
「俺は反対だ。碧来てから寝られなくなった」
「え!?」
嘘!と碧は顔を顰めた。
「ご、ごめ……」
「碧が無防備で寝てるのが可愛くて。つい寝顔眺めてた」
「……は?」
「……あのな。なんでそんなに気を遣う?もっと言いたい事を言っていいぞ?来た時の一番初めの方がよっぽど好き放題言ってたじゃないか」
「…だって嫌われたくねぇもん」
「嫌いになんかならないって言ってるのに。碧はもうただの居候じゃないだろ?」
あ……。
そうだ、店長にも言われたけど…恋人…?
かぁっと碧が顔に朱を散らすと久世さんがふっと笑っていた。
「ホント可愛い…」
「だ、って…こんなの…初めてだから!」
「……今日、由紀乃さんと会ってきた」
ぱっと碧が顔をあげて久世さんを凝視した。
「断ってくださいとは言った。言ったが…考えさせて下さいと言われた…。そんな事言われてももう会う気も俺はないのに」
ああ、と碧は納得した。だって由紀乃さんは久世さんが好きなんだ。多分。直接聞いたわけじゃないけど、あの公園で会った時の会話を聞けば察しはつく。
黙ってれば結婚出来るかもしれない状況にそう簡単に引き下がらないかもしれない…。
「……理由…聞かれた?」
「ああ。好きな人がいる、と言ってきた」
「……ごめんなさい…」
「………………なぜ碧が謝る?」
久世さんが怖いくらいの低い声を出した。
「だ、って…俺いなかったら…久世さん、幸せな結婚できたかも…」
「ないな。碧がいなくても断っていた」
「でも!わかんないじゃないか!」
「分かる。ない。とにかく、これは碧に謝られる問題でもなんでもない。俺の問題だ」
ぴしゃりと久世さんに言い切られて碧は顔を俯けた。
そう、だけど…。
嬉しいんだ。本当は。
でも…。
「碧…お前は気にしなくていいんだ」
久世さんが手を伸ばして碧の耳を触った。
ピアスが何個もついててしゃらりと音を出す。
…ピアス、やめようかな。これがチャライ感じがする、
少しでも久世さんの隣に立ってもおかしくないようになりたい。
なんで久世さんが断ってきてくれたのが嬉しいのにこんな微妙な空気になるのかな…。
しゅんと碧は頭を項垂れた。
「碧、先風呂行ってきていいぞ」
「いい!俺片付ける!」
「今日一日体だるくて疲れただろう?片付けは俺がするからいい。行ってきなさい」
ちょっとキツイ口調で言われまた碧は顔を俯けた。
「…はい」
久世さん嫌になるかな…?さっきから碧が言う事は久世さんを苛立たせてばっかりみたいだ。
バカだけど…一所懸命久世さんの事考えてるのに…うまくいかない。
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