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月からの甘い誘惑 74

 「シーナ、土曜日飲み会。店終わってから」
 「え~~~~~!」
 ヤダ!
 …と思わず顔に出る。
 折角日曜月曜連チャンで休みなのに!そしたら土曜の夜は久世さんが思いっきり抱いてくれるかもしんないのに!
 顰め面になったら店長に睨まれた。

 「バイト長くしてた斉藤くん、就職決まって辞めるって分かってたよな?送迎会するって言ってたよな?」
 「……ハイ」
 「お前は日月と連休だし?有給もとって。アパート火事でなくしたなんて不憫だと思ってたらちゃっかり恋人までできて?」
 「……ぅ…」
 なんかそう言われるとかなりおいしいとこ取りな感じだ。

 「わかりました…」
 よろしい、と頷かれる。
 「でも二次会とかは行かねぇです!」
 「いいよ。仕方ねぇよなぁ。デキたてほやほやでそりゃあねぇ~。……そんなにイイ?抱かれてんのお前だろ?」
 「やめてっ!」
 根掘り葉掘り聞かれそうな雰囲気に碧は慌てて店長から逃げた。



 「久世さぁん…土曜日飲み会入っちゃった…」
 帰りの車に乗って、久世さんが車を出した後久世さんの腕に頭を寄せながら言うと久世さんがぎっと眉間に皺を寄せた。
 「……社長来るのか?」
 あ、ソコで難しい顔になったのか、と碧は納得する。
 「来ないと思うけど。店のバイト長くやってたやつが就職決まって辞めるから、それの送別会だし」

 「……ならいいけど。………いいけど、酒飲みすぎはダメだ」
 「分かってます!」
 ほんとかぁ?と言わんばかりに久世さんが胡乱な視線を碧に向けてくる。
 「じゃあ…久世さんお迎え来てくれる?」
 なぁんて甘えてみたり。
 「当然だ。危なくて仕方ない」

 「え?……と、…当然…って…」
 うわ、と碧は顔が赤くなる。そんな、まさか当然って返されるとは思ってもなかった。
 「碧。悪いが…本当は飲み会なんか行って欲しくない位だ」
 「…えと…あの…俺も行きたくないよ…?久世さんといた方いいし…。店長にそれ言ったら嫌味ったらしくぐちぐち言われたけど…」
 小さく碧がぽそぽそと話すと久世さんが手を伸ばして碧の頭を撫でてくれた。

 「悪いな。ほんと嫉妬深くて狭量で」
 「ううんっ!全然……」
 むしろ嬉しい…。
 だってどうでもよかったらそんな事言わないもん。
 へへ、と碧が笑うと久世さんが苦笑した。
 「そのうち縛り付けすぎで嫌われるかもな…」
 「え?全然縛り付けてなんかないでしょ?」

 「そうかぁ?いちいちどこ行くとか聞いて、ついて回って、仕事行き帰りも一緒で…嫌にならないか?」
 「全然?……一緒、嬉しいもん」
 むしろもっとくっ付いてたい位。マンションに帰ってもホントはもっとくっ付いてたい位なんだけど…とは黙っておく。それこそ久世さんに呆れられたらヤダし。
 「……それならいいけど」
 つっと久世さんが頬を撫でてくれるのに笑顔になってしまう。
 いくらでも触ってて欲しいんだから、もっと縛り付けてくれていいかもと思ってしまう。
 


 「なんで社長いるの!?」
 土曜日、店が終わった後に皆で移動。そこに社長の姿もあったのに驚き、店長に碧はこそりと抗議する。
 「会議の時にちょっと言っただけだけだったんだけど…」
 「シーナ!」
 こっち来いと社長に呼ばれて仕方なく碧は社長の隣に座った。
 …社長は座敷の一般大衆飲み屋が似合わなすぎる。
 相変わらず見た目が派手で軟派だ。

 「ん?」
 隣に座った社長がじっと碧を凝視していた。
 「なんですか?」
 そしてくっくっと笑い出す。
 「随分嫉妬深い男らしい」
 キスマークを見てたんだ!
 「………つけてもらってるんですっ!気持ち悪くなるから!」

 「…それは随分な言われようだな」
 ちょっとむっとした顔をする社長にしてやったりと碧はにやりと笑った。
 「ホントの事です!」
 どうしよう…久世さんには社長来ないって言ってたのに…。
 一応終わる時間に合わせて迎えに来てくれるって言ってたけど…。あとでトイレに行った時にでもメールか電話する事にして、とにかく酒を飲み過ぎないように気をつけないと。

 …とはいっても久世さんが来てくれるからと安心はあるけど。
 それに社長もゲーム感覚と言ってただけで、もう碧の全部は久世さんに向いてるし、気にする事でもないかな、とも思って楽観する。 
 ところがその社長の手は気を抜くと碧の足を触ったり肩を触ったりと引っ切り無しにあちこち触ってくる。
 誰か助けろよ~、と思っても社長様のなすことなもので皆見ないふり。
 店長を睨めばごめん、と手を合わせて、それでも助けてくれる気はないらしいのに碧は嘆息した。
 
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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