由紀乃さんが泣きそうな顔で笑った。
「優眞さんがあなたといるとこを見たの」
いつだろう…?仕事の時以外は一緒にはいるけど…。
「あなたが仕事を終えて優眞さんの車に乗って…声をかけようと思ったのにかけられなかった………一緒に住んでる…?」
「住んでる。でも最初は違う!……最初は久世さんの親切だけだったんだ。…俺、火事で住んでたとこが全焼してなくなって…」
まぁ、という顔で由紀乃さんが驚く。…そりゃそうだ。
「行くあてもなくて…たまたまそこに久世さんが通りがかって…顔だけは知ってたから…最初はそれだけ…だったんだ…」
言い訳がましいだろうか?
でも本当の事だ。
「…幼馴染の…私と一緒にいた…この間告白されたの」
「あ、…やっぱり…?」
「やっぱり…?」
由紀乃さんがきょとんとしていた。
「あの人…由紀乃さんを好きなんだろうな、とは思ってた」
「…え?」
かっと由紀乃さんが顔を赤らめていた。
「私は分からないの。優眞さんを好きだと思ってた。でも優眞さんと結婚したら彼が…私には二度と話しかけないって言われて…」
「………嫌だった?」
こくりと由紀乃さんが頷いていた。
「それで分からなくなって…。そこにあなたと一緒にいる優眞さん見て…確認したくて…ごめんなさい」
碧はぶんぶんと首を横に振った。
「…強い、ね?……俺だったら逃げ出してるかも」
現にこうして由紀乃さんと話する前までは碧は逃げ出したかったんだ。
何も知らんふりして笑っていられればそれでよかったんだ。
自分から傷つく確認なんてしたくない。
この人にしたら、久世さんにお見合い断られてしかもその人の好きな相手が男だなんて気付いたら普通もっと取り乱してもおかしくないはず。
でも碧に対して軽蔑の目もなにもこの人にはなくて、ただ純粋に確認だけだというのが碧にだって分かった。
「……俺、久世さん好きだよ。誰よりも」
「……そう」
由紀乃さんはただそう言った。
「父には私の方から言っておきます。……と優眞さんにお伝えして?」
碧はこくりと頷いた。
「……ありがとうございます」
「あなたにお礼言われる筋合いはないです」
きっぱりと言われてしまう。
「でも…やっぱり…ありがとうございます」
碧は頭を下げた。
では、と由紀乃さんが立ってそして行ってしまった。
あの幼馴染の人と幸せになってほしい。
もう一度由紀乃さんの後ろ姿に碧は頭を下げた。
「由紀乃さんに会った」
帰ってきた久世さんと食卓を挟みながらぽつんと碧が口にした。
帰ってきてから母親にも電話を入れてしばらくこのまま居候するから、と報告し、ついでに料理の作り方も何品か教えて貰った。
おかげで今日はいくらかましな料理になっている。……はず。
「…は?……由紀乃さんと?」
久世さんが怪訝な顔つきになった。
「……あの…言ってなかったんだけど…実は何回か…会ってる…んだ」
「は?いつ?」
仕事の途中に公園で会った事と店の前で会った事も告げる。
「今日もまったくの偶然だったんだけど…道の途中でばったり会って…」
「……なんで会った時にすぐに言わない?」
「だって!久世さん俺の問題だ、って言って怒ったから!」
「……怒ってない。………なんで碧は俺を怒った怒ったって言う?俺は怒った事はない。……ああ、一度、社長のアレには怒り心頭だったが。……そんなに碧は俺が怒っているように見えるのか?」
「見える。声低くなって怖いもん」
「…………………」
久世さんが頭を抱えていた。
「…それで?何か言われた?」
「ええと父には私の方から言っておきますって伝えてって」
「………それだけ?」
「ううん。それだけじゃないけど。……あとは言わない」
「どうして?」
「どうしても。……由紀乃さんって強いね」
「……碧?」
「なぁに?」
久世さんがまた低い声になってる。
「由紀乃さんのほうがいい…にならないか?」
「はぁ?何言ってるの!?」
「お前は俺が怒ってるって言うし、怖いって言うし、信じてないし…」
「じゃあ言うけど!俺、由紀乃さんに久世さん好きだって宣言してきたから!」
久世さんが一瞬目を見開き、そしてくっと笑った。
「なんだ。そうか」
いいの!?
満足そうな久世さんに毒気を抜かれてしまい碧もくすくすと笑い出してしまう。
「久世さん左遷させられちゃうよ?」
「別にいい。碧がいてくれるなら」
さらりとそんな事言ってくれるんだから…。
だから幸せだって思えてしまうんだ。
----------------------
本編ここまでです~^^
明日から続いて番外編にいきます~♪
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学