「どう?」
シーナが得意そうにして遼のコーデを終えてフィッティングルームから出てきた。
「…いい…」
思ったよりさらにずっといい。
見た目がシーナは派手だが健全なイメージ、遼は落ち着いた感じでそれなのにエロい。それがちょっとルーズに穴開いたTシャツとかがやばいくらいにはまっている。
髪も黒でTシャツも黒。
Tシャツは小さめでパンツがカモフラで緩めだが、それがかえって細い腰を強調している。
ヒューと店長も口笛を鳴らした。
「あと別パターンこっち。着せる?」
「いやいい。シーナを信用しよう。店長あと伝票は本社宛に」
シーナは自分のコーデを誉められたのが嬉しいのか笑顔だ。
こういうとこが本当にシーナは可愛いと思う。
あの嫉妬男さえいなけりゃ…。
ふっとシーナの首を見ればやっぱりキスマーク。
ちっと思わず舌打ちしたくなる。
洸生はふと視線を感じて横に顔を向ければじっと遼が洸生を見ていた。
「どうした?」
「いいえ?」
にこりと悪魔の笑顔。
コイツの笑い顔はシーナの満面の笑みと全然違う。
「…服…いいの?」
「構わん。似合うヤツに着てもらった方がウチの宣伝になる。……というかお前モデルしないか?」
「え?」
「タッパはちょいと足らないが…ウチのパンフのとか」
コイツは雰囲気もあるし絶対いいと思う。モデルやっていた目が遼を計るように全身をくまなくチェックする。
「……あなたがいいなら」
「よし。細かい契約はまた今度にしよう。…店長、閉店だろう?悪かったな。遼、行くぞ」
洸生が呼ぶと遼が洸生の後ろをついてくる。
警察に、と脅された位で何で自分も大人しくコイツを連れ歩いているのか。
洸生の車は外車で路肩に停めると助手席が車道側になるので洸生はドアを押さえ、遼が乗るのを確かめドアを閉めた。
そして自分も運転席へ。
そのまま自分のマンションに向かうが途中にあるフレンチの店に車を入れた。
「あの…」
おずおずといった感じで遼が口を開いた。
「俺、別にコンビニの弁当とかでいいけど?」
「俺が嫌だ。そんなの食えるか!黙ってついて来い」
さっきまであんなに大言吐いてたのに急に殊勝になった遼に何か企んでいるのかと怪訝になってしまう。
「俺…別に服欲しいわけでもこんなとこ連れて来て欲しかったんでもない」
「…別にお前の為にしているわけじゃない。服は似合いそうだからやっただけだ。……ここは俺の行き着けで週に一度は来る」
遼が顔を顰めているのは不本意なのか…?
へぇ、と洸生はちょっと面白くなった。
服もレストランも図に乗るのかと思ったらそうじゃないらしい。
そういやコイツ名刺は抜いても金は抜かなかったんだったな。なるほど、ちゃんとしているところはしているのか…?
…そこはいいけど、じゃあなんでわざわざ会社まできて洸生を脅してついてきたんだ?
「シーナさんて…可愛いね」
「高校生のお前にカワイイ言われりゃシーナは面白くないだろうが、…まぁカワイイな」
レストランで顔を覚えられている洸生は、車で来ているので酒を飲まないのもギャルソンはもう分かっているし、コース料理を頼むのも分かっているのでいちいち聞きには来ず、洸生は目で遼の分も同じ物をと訴えれば頷かれ、黙っていても食事が運ばれてくる。
「……お前…なんの為にわざわざ来た?」
「何のため…?……さぁ?………気になった…から、かなぁ…」
「気になった?」
何が?
洸生が高校生にしては落ち着いている遼を見ると遼の顔に悪魔の笑みは消え去り複雑そうな表情を浮かべていた。
「なんだ?お家が恋しくなったか?帰るんなら帰っていいぞ?」
「…帰らない」
むっとしたように遼が言い返してくる。…そこは曲げないらしい。
コース料理なぞ食べたことがなかったのか、遼は洸生を見ながら洸生の見よう見真似をして食事を進め、そこはちょっと可愛いと思ってしまう。
「…シーナさんもココ来た事ある?」
「ない。ココに誰か連れて来たのは初めてだ」
「ふぅん…」
遼は随分とシーナを気にしているらしい。
「……シーナさんのキスマークって…あなたがつけたの?」
「いいや?あいつには嫉妬深いバカな男の恋人がいる」
「……そう、なの…?………ああ…だからふられた、か…」
「うるせぇぞ?」
くすりとまた遼が悪魔の笑みを浮べている。
「いいよ?代わりでも?」
「代わりになんぞなるものか」
「……………そうだね」
またふっと悪魔の笑みを消してやるせないような表情を見せる遼に洸生は眉根を寄せる。
一体コイツは何が言いたいんだ?
警察に、と脅してきたくせに殊勝な態度やら、遠慮やら、そのくせ帰らないと強気になったり。
……どうにも分からないやつだ。
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