はっと目が覚めて時計を見れば丁度起きる時間だった。
あれ?昨日どうやって寝たんだっけ?
世那がビール飲んでてそれちょっともらって…。なんかお姫様抱っこされてた気がする。
…気?夢じゃないよな…?
ぐわっと譲の顔が真っ赤になってくる。
いや、起きないと。
そそくさと起きて1階に向かった。まだ時間は6時で世那は起きてこないはず。
弁当と朝ごはんの用意して、ゴミまとめて。
「譲!」
階段を下りてきた世那が譲を見て、ほっとした顔をした。
「なんともないか?」
「だ、だ、だいじょ…ぶ」
「いや、俺が悪かった!」
「いえ!そ、んな…事ない…」
もっと、と口をつけたのは譲だったんだ。
「頭痛いとかは?」
ぶんぶんと譲は頭を横に振った。
「ならいいけど。………………お前、酒のむなよ?」
「普通は高校生は飲まない…と思う」
「ああ、そうしとけ」
お姫様抱っこしたよね?…ともまさか確かめられない。
なんとなく気まずくて黙ったままで朝ごはんを食べて学校へ。
昨日と同じ時間帯で西高の生徒はまばらだ。
行きはいいんだ、行きは。
「譲」
昨日と同じように世那がドア近くに譲を立たせてくれる。
「あ…」
世那が譲を見て声を上げた。どうしたのかな?と譲は世那を見上げた。
「携帯」
「あ…」
すっかり忘れてた。
家に帰れば世那がいるので携帯の必要性もなくてすっかり頭から抜け落ちていた。
世那は身長が何cmあるんだろう?譲は今年の身体測定でやっと初めてのギリ160センチだった。
それが見上げる位なんだから…。
お母さんも身長が低い。その譲よりも低いんだから遺伝?
せめて170センチ位は欲しいのに…。
朝の電車は混んでいるけど、昨日も今日も世那がいてくれてぎゅうぎゅうに押しつぶされることがない。
「チッ」
そう思っていたのに、世那が小さく舌打ちしてふいと譲から離れた。
え?何?どうしたの…?なんで…?
世那が人をかき分けて奥の方に移動して行ってしまって譲はどうしたのだろうと不安になってくる。
「あ!高橋くん!おはよう」
電車のドアが開いて乗り込んできたのは生徒会長だった。
「おはようございます」
今日もにこやかで爽やかだ。
明るい髪にやさしげな表情で本当に世那とは全くの正反対といっていい。
前は世那が怖くて仕方なかったのに、今は世那が見えないほうが不安だ。
奥の方に飛び出した黒い頭が見える。
…そうか…宮下会長を見つけたから奥に行ったんだ。
だよね…。
「高橋くん、今週の金曜日には役員会があるからね」
「あ、はい。分かりました」
金曜日。じゃあ帰りは世那とは別々かな…。
一人で帰るの?…怖いな…。
でも役員会なら西校の下校時間ずれるかな?…だといいんだけど。
学校の駅についてもずっと宮下会長が隣にいた。
けれど、あんなにかっこいいな、と思っていたのに、いや、今だって憧れる位スマートでかっこいいんだけど譲の目はどうしても世那を探している。
…あ、いた。
駅から学校に向かって会長と一緒に歩きながらも世那の姿を見つけると思わず嬉しくて顔を俯けて一人で喜んだ。
世那はすたすたと歩いていってあっという間に行ってしまう。
「ん?アイツ天間じゃないか?こんな時間に?早いな…珍しい」
譲に付き合って早く家を出てるんだ。前はいっつも遅刻間際の時間だったのに。
世那は嫌じゃないのかな…?
「そういやアイツに彼女出来たって噂らしいよ?」
「え?」
「モノ好きがいるもんだねぇ…」
……………世那…彼女…いるんだ……。
なんかものすごいショックを受けた。
「高橋くん?どうかした?」
「え?いいえ?…宮下会長は彼女は…?…って、いないわけないですよね!」
こんなにカッコイイんだから!失礼な事聞いちゃった!と譲は慌てた。
「それがいないんだなぁ」
「え?そうなんですか?」
「そう」
「そんなにかっこいいのに…」
「それはどうも」
くすっと笑うのでさえカッコイイ。
世那といい、会長といいカッコイイ人ばかり見てるといかに自分がお粗末か…。
俯きながら大きい眼鏡を直す。
昨日の風呂上がりの世那の体と風呂場で見た自分の貧弱な体。
そういえばお姫様抱っこの時に軽!って世那が言ってたような…?
軽いって言ったってお米なんかよりもずっと重いのに!
お姫様抱っこ…。彼女いるって、彼女にもしてるのかな…?
なんかもやもやしてしまう。
会長といるのに…。会長が好きなはずなのに…。
いや、会長だって譲なんかに好きと思われたって迷惑なだけだろうけど。
テーマ : 自作BL小説
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