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僕の好きな人 15

 「よう!世那!また今日もメガネちゃんと一緒?」
 「…………」
 昨日と同じ派手な人が声をかけてきたけど、世那は無視。
 ……やっぱ怖い。
 世那の制服の裾をきゅっと掴んでしまう。

 「せ~~~な~~~~!何?お前マジなの~?」
 ぎゃははと笑われている。
 まじって何が?
 「うわぁ~!趣味わりい!な?」
 派手な人が自分の脇にいる女子に話しかけてる。
 「え~!いいじゃん!メガネちゃん受け!」
 きゃーーと西高の女子の黄色い声が聞こえる。

 …うけ?って何???
 世那はそれも無視してぐいと譲の背中を押し駅構内を横切っていく。
 改札を抜けるとはぁ、と譲がほっとして溜息を吐き出した。
 それでもちらちらと西高の制服姿があるのに世那の制服は掴んだままだ。
 「あの…うけってなぁに?」
 世那を見上げて小さく聞くと世那は譲を見下ろしてちょっと困惑の表情を浮べた。
 「…………………知らねぇならそのままでいい」

 そうなの?
 でも気になる。
 ウケるってこと?…確かにかっこいい世那の横に自分みたいなのがいたらウケるだろうけど。でもウケる、とは言ってなかったはず?
 それに知らないなら、ってウケるだったら譲だって分かるんだから違うって事?
 馬鹿にされた感じだったし、世那がそう言うならいいけど、世那は譲といて馬鹿にされたような言い方されて嫌になんないのかな?

 でも嫌だと思ってるって言われるのも嫌なので、ずるい譲は聞きもしない。
 背は小さいし、ガリだし、運動苦手だし、男として堂々と、なんてできそうにもない。
 自分でも分かってる野暮ったい眼鏡に覇気のない引っ込み思案の性格。
 ………いいとこ一つもないじゃないか。
 チラと世那を盗み見る。
 いいな…、世那みたいだったらあんな西高の集団の中だって堂々と通っていけるんだ。
 自分一人だったらあっという間に囲まれてしまうに違いない。

 世那にくっついたまま家に着くとやっと安心して世那の制服から手を離した。
 譲が着替えを終わるとドアからノックの音がして着替えを終えた世那が携帯を手にして譲の部屋に入ってきた。
 「番号」
 「あ、うん」
 譲が番号やアドレスの綴りを言うと世那がすぐにかけ直しして譲の携帯が鳴った。
 「それ入れとけ」
 「うん」
 携帯に表示された番号を登録。

 世那の携帯だ…。
 譲が嬉しそうに携帯を眺めていると世那が譲の頭をぽんと叩いて部屋を出て行った。
 頭叩かれた…。
 叩かれたといってもそれはよしよしと同じようなものだと分かる。
 世那は嫌じゃない、のかな…?
 またさらに譲の顔が笑ってしまう。

 最初はお母さんの結婚で天間って人がお兄さんになるなんて、と思ったけれど、今では世那でよかったと思う。
 ううん、世那以外はやだな、とも思ってしまう。
 嬉しい気分のまま一階に下りてご飯の下準備。
 あ…。
 そういえば昨日は多分世那にお姫様抱っこされたんだった、と冷蔵庫を開けた時に目に入ったビールで思い出した。
 男でお姫様抱っこされるってどうなの?
 確かめてはいないけど…。

 「ごっそさん」
 「あっ!はいっ!」
 世那が空になった弁当箱を手にキッチンに現れたのにどきっとした。
 そうだ、宮下会長が彼女が、って言ってた…。
 彼女って学校の人なのかな…?
 聞いてみたいけど聞けない…。
 じっと世那を見てると世那がなんだ?というような顔をしたのに慌ててなんでもない、と首を振る。

 ………何も聞けるはずない。
 何か譲が言っても世那が怒る、という事はなさそうだけど、でも余計な事を聞いて詮索してるとか思われたくもない。
 世那はよくはしてくれるけど、兄貴じゃない、と本人からそう言われてるんだからいい気になっちゃだめだ。
 分かってはいるけど、そこがすごく残念で仕方ない。
 兄貴でいい、って言われてたら甘えられるのに…。

 今まで母親しかいなくて、家に帰ってきてもご飯食べるのも一人だった生活だったけど、こうして一人じゃなくて人の気配がするのが嬉しい。
 世那がリビングでテレビをつけ、ソファにごろんと横になって見ている。
 世那も今までは帰ってきても一人だったはず…。
 譲がいるのに嬉しい……とは世那は思うはずないか。
 かえって今まで一人で自由だったのに邪魔だ、とか思われていそうだ。
 …だよね。
 おまけに譲は片付けも出来ない位だし、朝も帰りもわざわざ一緒に時間を合わせなきゃないし、世那に迷惑しかかけてない…。
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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