教室に戻ると仲いいやつが寄ってきた。
あといつも帰りに電車で一緒になる奴も。
「高橋…大丈夫か…?」
「……うん」
心配そうな友達の顔に、え…?痴漢、分かられてるの?恥ずかしい!と思いながら譲は顔を俯けそそくさと自分の席に座る。
鞄は会長がわざわざ届けてくれたのかな…?ちゃんと机の横にかかっていた。
それにしても、心配そうにしてるけれど、男なのに痴漢…とか思わないのかな…?
「本当に?脅されてる…とかないの?」
「金持って来い…とか言われてない?」
「?????」
アレ?なんか…違う…。
「あ!もしかして世那の事!?」
「せな……?」
二人が顔を合わせた。
「違うよ!全然そんな事ないよ!」
「天間って人に高橋が脅されて、会長が助けた…」
「ちがう~~~っ!」
譲は慌てて否定した。
「世那は脅したりなんかしないもん!」
今日だって助けてくれたのに!いつでも助けてくれるのに!
「…そうなの…?なんで高橋は天間って人と…?」
言っていい、んだよね…?
「えと…僕の母親と世那のお父さんが結婚して、…その…義理の兄弟に…」
え~~~~~!!っと思い切り驚かれた。
「お前、大丈夫?家でも脅されてる…?」
「ないってば!」
世那…どんだけ…って自分だって世那を知らない時は顔を見ただけでびくびくしてたんだから同じだろう。
でももう世那の事が怖いって事はない…。
だって世那は最初から譲の事を助けてくれてた。
家に行く前から。
譲があわわわってなってると助け舟出してくれたり。
「世那…優しいよ」
え~?っと二人も、他の譲たちの話を聞いていた他の人も信じられないって顔をしていた。
……確かに自分だって同じ家にいたってしばらくはびくびくしてたけど、と譲も苦笑してしまう。
授業が終わると今までは下の昇降口近くで待っていた世那が譲のクラスの前までやってきた。
「た、高橋…天間さん来てる」
「え?…あ!」
慌てて教科書を鞄に入れようとしてバラバラと落としてしまう。
だからどうしてこうドジなんだろう。
慌てたりするともう物事がスムーズにいかなくなるんだ。かえって時間を取る羽目になってしまう。
それでもどうにか鞄に詰めて廊下に出た。
「待たせてごめんなさい」
「…慌てなくていいって」
口端を緩めている世那にドジを見られたと思って恥ずかしくなる。…そんなの世那から言わせれば今更だって言われるかもだけど。
「…大丈夫か?」
「あ、…うんっ」
今のドジの事じゃない。朝の事だ。そういえば痴漢の事はすっかり忘れてた…と自分の能天気さに呆れる。
こうして思い出してしまうと嫌な気分まで思い出してくるけど、でも世那がいてくれるから…。
世那の腕を掴みたい衝動に駆られるけどさすがに何もないのにそれはちょっと、って譲でも思う。仕方なくつっと世那に近づいておくだけにしておこうと思ったら世那の手が譲の背中に添えられた。
「…帰るぞ」
「…うん」
嬉しくて心臓がきゅっと鳴った。
ずっと世那の事ばかり考えてた。
彼女誰だろう、とか。保健の先生はなんで世那を名前で呼ぶんだろうとか。
まさか彼女ってのは保健の先生か?とか。
大人っぽい世那は保健の先生の横に立っても全然違和感なさそうだし。
女の人なのに譲よりも背が高くていかに自分が貧弱かが分かって嫌になってくるけど、世那にはお似合いな気がする。でもそれがもやもやして。
「譲?」
また余計な事で頭がぐるぐるしていてそれでなくても遅い歩きがさらに遅くなっていたみたいだ。
なんでもない、と小さく頭を横に振った。
昇降口を出ると剣道着姿になっていた会長が立っていた。
「会長!」
「高橋くん。大丈夫かい?」
わざわざ気にして待っていてくれたのだろうか?
相変わらずカッコイイ。
「…会長はこれから部活ですか?」
「そうなんだ。残念ながらね…」
そう言って何故か世那と睨み合いをしている。
「じゃあ、また明日。気をつけるんだよ」
「世那がいるから…」
大丈夫です、と譲がにこっと笑うと会長が苦笑した。
「天間にも気をつけて」
え…?どうして?と首を傾げる。
「……いや、なんでもないよ。ではまた明日ね」
「はい!あ、朝、鞄届けてくれたの会長ですよね?ありがとうございます」
「どうってことないよ。大丈夫そうでよかった」
わざわざ待っていてくれたんだ。優しいな、と気持ちがほわっとする。
「譲」
行くぞ、と世那が声をかけてきたので、では、と会長に頭を下げて世那にくっ付いた。
世那はふん、と鼻息を漏らし、そしてまだ会長と睨みあってた。
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