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熱吐息 accelerando~急速に~2

 「腫れてる!」
 湿布を買って車に男の人を座らせて足を見たらかなり腫れてた。
 やっぱり病院…。
 「骨はいってないって」
 「…でも」
 「いいから。はい、乗って、運転して」
 本当にいいのだろうか…?
 瑞希は不安を覚えながら運転席に戻った。
 「あんた名前は?」
 「宇多 瑞希(うだ みずき)」
 「俺は二階堂 宗。あんた大学3年?4年?」
 「4年」
 「ふぅん。じゃ、足よくなるまでよろしく」
 二階堂…。
 二階堂に縁があるんだろうか?
 就職先も二階堂商事だ。
 「……ひどくなるようだったら病院に」
 「ひどくなるようならな」
 男が頷いたのに瑞希はほっとして車を出し、ゆっくりアパートに向かった。
 「歩ける…?」
 肩を貸すが背が大きいのであまり役に立ってない。
 「大丈夫だって」
 男がくすくすと瑞希の頭の上で笑っていた。
 「そこの一番奥の部屋。ボロだよ」
 男の人のスーツはいいものだって分かる。とても、雰囲気もそうだがこんなボロアパートには合わないだろう。
 鍵を開けて中に入り、電気をつけた。
 部屋にあるのは小さなテーブルと簡易ベッド、小さいキッチンだけ。
 「……狭い、な」
 「すみません…」
 「いや、…」
 困ったように男が鼻を搔いていた。
 「これじゃでかい俺では迷惑だな…」
 「い、いいからっ!…狭くて、悪い、けど…」
 自分の使っているベッドに男を座らせた。
 今まで夜で暗かったのと動揺していたので全然顔もよく見ていなかったけど二階堂 宗と名乗った人は背も高いし、顔も整っていてかっこよかった。
 でも思ったより若そうだった。
 いくつなんだろうか?
 落ち着いて見えるけど年齢はいまいち分からない。上にも見えるし下にも見える。
 「あ、スーツ…皺になるから」
 ああ、と二階堂さんが頷いて上着を脱ぎ始めるのに瑞希はドキドキしてしまった。
 どうしよう…。
 こんなかっこいい人が自分の部屋にいるのが信じられない。

 瑞希は母親に捨てられたせいなのか女の人がだめだった。
 今までいいな、と思うのは男ばかりで、でもだからといってそれからどう、という事は一度もなかったのだが。
 だって男に好きだって言われたって相手は引くだけだろう。仄かに好きかも、と思うだけでそれ以上の感情は抑えていた。
 それになにより瑞希にはどうしても事情が足枷になって誰かと懇意にという事がまず考えられないのだ。

 ネクタイを外す仕草に思わず瑞希は顔を背けた。
 なんとなく見ていられない。
 薬局でTシャツとスウェットとかも二階堂さんは買い込んでいたのでさっと座ったままで着替える。
 瑞希はスーツを受け取ってハンガーにかけ、自分の服もかけている簡易の洗濯物をかけるようなポールにそれをかけた。
 スウェットを着ていても、ひどくこの人はこの部屋には似合わないと思う。
 「え、と…二階堂、さん…?」
 「宗でいい」
 「宗、さん…?」
 「いや、宗で」
 呼び捨て…?
 「……宗…?」
 「あんた、瑞希って言ったっけ?あんたも綺麗だな。男でそうそう綺麗なと言える様な奴なんていないと思ってたけど」

 …誰のことだろう?
 自分は再々そう言われる事があるのでそれを武器にしているが、宗の言い方だと別の誰かも綺麗な人はいる、ってことだ。
 …宗が綺麗だと言う人はどういう人なのだろう?
 少しだけ気になったが、そんな所の話じゃない。
 何しろ自分は車でぶつけてしまったのだ。
 なんか落ち着いていたけど、改めて思い出すと寒気が襲ってくる。
 「あの…足、だけ…?」
 そういえば倒れてたじゃないか。頭とか打ってないだろうか?
 「あ?ああ。車にはちょっと接触しただけで倒れた時に足捻っただけだ。…かっこ悪いな」
 「そ、そんな…俺、の方悪いから…」
 「いや、俺もちょっと考え事していたから」
 宗が苦笑を漏らした。

 どんな顔してもさまになっているのに思わず魅入りそうになって瑞希は顔を俯けた。
 「…そういや転がり込んでなんだが、あんた、ええと、瑞希?クリスマスだろう?彼女は?」
 「…いないから。…宗こそ」
 そんなにかっこいいならいて当たり前だと思うけど。
 「俺もいない。じゃ、心置きなく世話になろう」
 くくっと宗が笑った。
 「…でも…ウチ何も、ないよ…?」
 テレビもパソコンも何もない。元々バイトばかりでここはほとんど寝る為だけに帰ってくるようなアパートだったから。
 「確かに何もないな…」
 宗が頷くのに申し訳なくなる。連れて来るべきじゃなかっただろう。やっぱり病院にいけばよかった。
 そう思ってもすでに遅い。
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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