はのんのBL部屋

　「譲？具合悪いんじゃないのか？」
　家に着き、二階に上がって部屋の前まで来た時に世那が聞いてきたけど、譲は首を横に振った。だって具合悪いんじゃない。
　「……お前、無理してないか？」
　「何を？」
　「俺の分まで朝飯作ったり、弁当作ったり、…いいんだぞ？今日はなんか店屋ものでもとるか？」
　「ううん！大丈夫！……あ、でも…僕が作ったものより…世那はその方がおいしいかな…」

　「ばか。そんな事あるか。譲が無理してるんじゃないかと…」
　「無理なんかじゃないもん！今までだってしてたからそんなの全然無理じゃないっ…」
　無理してるのは世那に聞きたい事がいっぱいあるのに聞けないのをだ。
　「じゃあどうした…？今日はなんか溜息が多い。自分で分かってるか？ずっとだぞ？学校でなんかあったのか？」
　学校で、というか、世那の事で、だ。
　思わず俯いてしまう。

　「譲？」
　でも世那に彼女いるの？なんて聞けないでしょ。何故？って、それが今何の関係があるって思われるし、それにもし世那からいるって言われるのを譲が聞きたくないから。
　「どうした？言ってみろ」
　言ってみろって言われたって……聞けない！
　「…きょ、今日…あの…会長に……」
　「宮下？」
　世那の声が急に低くなって譲は肩を竦めた。
　そしてそっと上目遣いで世那の顔をみたら思いっきり世那の眉間に深い皺がよっている。

　………怒ってる？というか不機嫌？
　「……いい…なんでもない」
　世那の顔にやっぱり言うのやめようと思って自分の部屋のドアを開けて入ろうとしたら世那がついてきた。
　「なにかされたのか？気をつけろと言っただろう？」
　……そういえば言われてた。初めて会った日だ。

　「だって！何に気をつければいいかなんて知らなかったもん！まさかキスなんて…」
　「………なに？」
　思わず言っちゃってあ、っと口を塞いだ時は遅かった。すぐにぎ、っと世那が譲の肩を掴んできた。
　「譲？何て言った？」
　世那怒ってる！顔が怖い！
　「や……」
　びくんと身体を震わせ譲が身体を小さくして首を横に振る。
　「譲！」
　「な、なんでも…ないっ」
　肩をグッとさらに力を入れて掴まれ、世那が譲の顔を覗きこんだ。

　「………宮下に…キスされたのか？」
　何を言ってる？と笑われそうだ…。譲みたいなのにキスなんか会長がするはずないに決まってるのに！
　「な、なんでもない…」
　「………譲にとってキスされた事は何でもない事なのか？」
　何でもない事じゃないに決まってる！嫌だったんだから！

　そんな事を世那に言われて目が潤んでくる。ごしごしと唇を拭いながら涙が溢れそうになってきた。
　初めてだったのに…会長に勝手にキスされて、世那には何でもない事言われて…そんなわけない。
　でもそれ以上に気になるのが本当は世那の事なんだからわけがわかんない。
　うぅ…と泣きながら唇を拭う事しか出来なくてただごしごしと涙を溢しながら何度も何度も手の甲で拭う。
　「チッ……来い」
　世那が舌打ちすると譲の腕をぐいと引っ張ってまた一階に連れて行かれる。

　何？なんか怒ってるの…？
　世那を怒らせたんだ、と思えば涙がますます止まらなくなる。
　譲がトロくさいから？
　ぐいぐいと引っ張られ、何されるんだろうとびくびくしてしまう。

　すると洗面所に連れて行かれてフェイスタオルを濡らすと世那が譲の眼鏡を取り、顔をぐいぐいと拭き始めた。
　顎をつかまれ上を向かせられて世那がごしごしと譲の唇を拭う。
　涙が浮かんでいた目も拭い、タオルを洗ってまた口を拭いていく。
　「いいか？それは虫が触っただけだ。お前は気にするな。ただ今度はちゃんと注意しろ。無防備になるんじゃない。」
　虫が触っただけ？
　……怒ってたんじゃない…のかな…？

　「世…那……おこ、って…ない…？」
　「なんでお前に怒んなきゃないんだ？……ったく、クソヤローが…」
　…クソヤローは会長の事？
　何度も何度も世那が拭いてくれる。
　その間に譲の涙は止まっていた。
　そして世那がタオルを洗濯機に突っ込むと譲の頬を手で挟んでじっと顔を見られた。
　世那の顔が目の前にあって心臓がうるさくどきどきしてくる。

　あ、やっぱり…世那だったら…キスされたいかも…。
　こくっと息を飲み込むと世那が親指で譲の唇をなぞった。
　う、わ…っと思わず目をぎゅっと閉じるとはぁ、と世那が溜息を吐き出した。
　「………消毒終わりだ。いいか？何もなかった。虫が触っただけだ」
　こくこくと小さく譲が頷くと世那が眼鏡を譲の顔に戻してくれる。
　「消毒終了」
　そう言ってまた譲の腕を引っ張って二階に上がった。
　
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続きに拍手コメお返事です^^　

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学