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僕の好きな人 30

 なんかもう考える事がありすぎて頭の中が飽和状態だ。
 世那が好き。
 義理の兄弟だけど。男同士なんだけど。
 これは決定だと思う。
 でも世那には彼女がいるらしい。
 でも昨日の夜、世那は譲の頭にキスした…はず。
 でも今日は会長にキスされて。
 でも譲は消毒完了で虫に触られたもんだって。気にするなって。
 クラスの女子にも暴露して。
 ……それはどうやら内緒にしてくれるらしいけど。

 「あ、イッ…!」
 ぼうっとしてぐるぐると考え事してたら包丁で指を切ってしまった。
 「譲!?」
 すぐに世那が声を聞きつけてリビングから飛んでくる。
 「切ったのか?」
 「うん。でも大丈夫だよ」
 「………けっこう切れてるだろ」
 「大丈夫だよ…」
 たいした事ないから、と譲が血を水道で流していると世那が救急箱を持ってきてくれて絆創膏を貼ってくれた。

 「……本当に大丈夫か?」
 うん、と頷くけどなんかどきどきが大きい。
 彼女…いるの…?
 そう聞いてみたい。でも、いない以外の答えは聞きたくない。
 世那は絆創膏を貼ってくれたらすぐに譲から離れてしまってやっぱり聞けない、と譲は顔を俯けた。

 譲が天間の家に来て1週間が経つ。
 最初は怖いだけだったのに、今は怖いどころか世那が一番安心できるんだ。そしてどきどきが止まらなくなる。
 でも譲みたいな冴えない奴に好かれたって世那は迷惑なはず。
 譲の母親と世那の父親がたまたま再婚したおかげで義理の弟になっちゃったけど、世那には兄貴じゃないって言われてそれでも世那は譲を守ってくれるようにしてくれている。
 実際、ずっと世那に迷惑をかけっぱなしなのは分かってる。それなのに世那が何も言わないからいい気になって自分が甘えっぱなしなのも…。

 結局聞く勇気もなく、ただぐだぐだとしてるだけの自分に自分でも嫌気がさしてくる。
 あ~あ……
 はぁ、と譲は大きく溜息を吐き出した。


 そのまま譲は沈んだままだった。
 再婚した親達は長期の旅行中で、あと1週間も帰ってこない。
 その間に一体どうなってしまうんだろう?
 たった1週間で世那に対してこんなに感情が変わるなんて思ってもみなかった。
 あと1週間たったらもっと好きになってるのかな…?
 ご飯を食べていても、シャワーを浴びていても、テレビを見ていても考えてるのは世那の事だけだった。

 シャワーも浴びたし、後は寝るだけ、…なんだけどリビングにいれば世那と一緒にいられる。
 なので譲は自分の部屋に行かずにリビングのソファに世那と一緒に並んで座っていた。
 ただ体育座りになって小さくなって膝に顔を埋めるようにしていた。
 明日は土曜日で学校も休みだけどずっとこうしているだけなのかな…?でも譲は世那と一緒ならそれでもいいけど、とか思ってしまうんだ。

 「譲…」
 世那が譲の膝に手をかけてきてどきっとする。
 「明日どっか遊び行くか?」
 「遊び………どこ?」
 「う~ん…どこがいい?映画?ゲーセン?」
 「……ゲームは得意じゃないもん…」
 くっと世那が笑う。だろうな、と思ってるに違いない。
 そのまんまだから別にいいけど。

 「じゃあ動物園とか?」
 「……子供みたいだ」
 「別にいいだろ」
 「……いいけど」
 「じゃ、動物園な」
 「…………ん」
 世那と一緒に出かけるのは嬉しいけど、世那はデートとかないのかな…?
 そんなの聞かないけど!
 「あと帰りに買い物して、でいいだろ?」
 「……うん…」

 譲が頷くと世那が髪をごしゃごしゃにして撫でてきた。
 譲が会長との事で落ち込んでるとでも思っているのかな…?
 だからどこか行こうか、なんて言ってくれたのかな?
 会長のはショックはショックだけど、それより世那の事ばっかり気になってて、が正解なんだけど。
 でも世那が少しでも譲の事を考えてくれてるなら嬉しい。
 「うん」
 もう一度膝を抱えたまま返事するとぐいと世那が膝を抱えたままの譲の身体を引き寄せるようにして抱きしめてくれた。

 「……気にするなよ?」
 「…………ん」
 甘えて…いいのかな…?
 母親にだって甘えたなんて小さい頃しかなかったのに…なんで世那にはそうしたくなっちゃうんだろ。
 「世那…」
 すりと頭を摺り寄せるようにしたら世那の腕の力が強くなった。
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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