はのんのBL部屋

　世那がいないだけで知らないところに放り出されたような気がしてならない。
　風が出てきてかたんと小さく窓が鳴っただけでもびくっとしてしまう。
　曇り空はますます暗くなってきて今にも雨が降り出しそうだ。
　…まるで、本当に譲の気持ちと一緒だ。
　家にまで迎えに来て…。あれが本当に保健の先生かどうかは見えなかったから分からない。でも世那の様子は慣れた風で無造作に車に乗り込んだように見えた。車で迎えに来るような年上の…と考えるとどうしたって保健の先生しか浮かばない。

　「…やだよ」
　クッションを抱きかかえて小さく身体を縮こめた。
　世那を苛立たせてそのくせ一人でぐじぐじしてるんだから救いようがない。
　そんなの自分がよく分かってるけど。
　時計を何度も確認する。
　夕方まで帰ってくるって世那は言ってたけど、夕方って何時？

　何度も何度も時計を見たって時間が過ぎるはずないのに…。
　夕方まで帰ってくるって言ったけど、もし付き合ってるならどうしたって苛立たせ、怒らせるような譲といるより彼女といたほうがいいに決まっている。　
　昨日はあんなに楽しかったのに…。
　ほら、譲の気持ちが沈めば沈むほど天気が崩れていく。
　雨も降り出した。
　屋根に雨の当たる音が聞こえ出した。

　なんでこう世那を怒らせちゃうんだろう？苛立たせてしまうんだろう？なんかずっと世那が苛立っている気がする。
　でもだからって世那は譲に当たるなんて事はしないし、何かの折に頭に触れたり、笑ったりもしてくれてた。
　頭にキスだってしてくれたのに…。
　「ひゃ…」
　雷が鳴り出した。
　時計を見ればまだ四時前だ。夕方ってほどな時間じゃないから世那はまだ帰ってこないだろう。

　「…早く…」
　帰ってきて…。
　雷だけでなく、心が不安だった。
　世那の顔が見えないだけで、自分はもう世那に嫌われたんじゃないかと思ってしまう。
　思い出してしまうのは世那の苛立った声。それだけじゃないのは分かっているけどどうやったって自分に自信のない譲はマイナスの方に考えてしまう。

　「世那ぁ……」
　雷が怖いって言ったらまた優しくしてくれるだろうか…？
　本当は我慢できないほどじゃないけど、怖いって言ったら世那はまた抱きしめてくれるだろうか…？
　こんな事考える自分はずるい。
　だって好きなんだ。
　兄弟なんかじゃない。でも甘えてくっついてそれがおかしくないなら兄弟でいい。でも本当は違う。
　世那の言う兄貴じゃないと言うのときっと意味は違うだろう。世那は譲みたいなのが兄弟だと思いたくないのでそう言うんだ。でも譲は違う。
　
　「世那……せ、な…」
　いないのが苦しい…なんでこんなになっちゃったんだろう。
　だって好きなんだ。
　ますます雨も激しくなって雷も大きく鳴っている。
　「譲っ」
　世那の声が玄関から聞こえた。そしてばたばたと廊下を走ってくる足音。
　世那…帰ってきた…？

　「譲！？」
　自分の中がぐちゃぐちゃになっていつの間にか泣いていた。
　「譲…」
　リビングのソファに小さくなっていた譲に世那が気付いてすぐに来てくれる。
　「世、那……」
　「…怖かったか？」
　違う…。
　きっと世那は譲は雷が怖くてと思っているに違いない。そうじゃない、そうじゃないけど…。
　譲が手を伸ばすと世那が抱きしめてくれた。

　「一人にして悪かった」
　きっと送られて来たのだろうけど、それでも世那の身体が濡れていた。
　「濡れてるぞ？」
　そんなのいい。
　譲は首を横に振ってぎゅっと世那に抱きつくと、世那がそのまま譲を抱きしめてソファに座った。
　「もう大丈夫だ…。…な？…」
　世那に顔を埋めたまま小さく譲が頷く。

　「……譲…」
　ごめんな、と世那が小さい声で耳元に言ってくれるのに譲の涙腺は壊れた。
　だって別に世那が謝る必要なんてどこにもないのに…。そして世那はきっと譲が雷を怖がってると思って早くに帰ってきてくれて、一人にして悪かったと謝ってくれるんだ…。
　「せ…な…」
　「……泣いてていいけど…眼鏡はずしとけ」

　眼鏡の縁に涙が溜まってるのを見て世那が笑いながら譲の眼鏡を外しテーブルに置く。その間も譲は世那の服をぎゅっと握って離れない。
　雷が鳴っている間なら抱きついててもいいんだ。
　雷が大きく鳴って頭を世那にこすり付けるように譲が世那の腕の中で身体を縮めれば世那がすっぽりと譲を強く抱きしめてくれる。
　「大丈夫だ…。いるから…」
　世那の声が耳に響くのに譲はこくこくと頷いた。
　
-------------------
続きに拍手コメお返事です^^

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学