「バイトは?何?」
「え?あ、うん…」
ホスト、なんて言ったらどう思うだろう?
しかし稼ぎ時だったのに金が入らないのはちょっとどころじゃなく痛い。
「なんのバイト?」
「…さっきのは、…ホスト」
宗が眉を上げた。
「へぇ、そんなちゃらちゃらに見えないけど」
遊んでいると思われたのだろうか?
でも、本当に車買ったばかりでキツイ。
自分だけだったら暖房も入れないんだけど、まさかこの人がいてそういうわけにもいかないからファンヒーターはつけてるけど。
もし、慰謝料とかになったらきっとこの比ではないだろうから何とも言えない。
「あの…何か、食う…?」
何かあっただろうか?多分なんか残り物あったはず…。でもこんなボロアパートで見ず知らずといっていいのに、変だ。
「………」
宗は何か考えているようだった。
「……考えなしだったな」
「え?」
「いや、俺の事は考えなくていいから」
「え?で、でも…」
「ちょっと家に帰りたくない気分だったんだ」
ばつの悪そうに宗が苦笑していた。
「悪い。別に訴えるとかもしないから気にしなくていい。流石に今は動けないが明日には消えるよ」
「そ、んな…別に、いい…んだ。こんなボロだけど…宗、がいいなら、本当に足よくなるまで…」
誰もここに入れた事なんてなかった。いや、入れる事なんて考えた事もなかった。瑞希は親にも捨てられたのだ。他人など信じられるはずもないし、そもそもゆっくりするなんて時間もない。バイト、バイトで時間などいくらあっても足りない位だ。
でも宗に関しては足を怪我させた責任はある。
性質の悪い奴だったら慰謝料を分捕られていたって仕方ないはずだ。
自分があてられた側だったらきっとラッキーにしか思わないはずだ。
宗は今の所そんな事考えてもいないらしい。
それに宗がかっこよくて、少し惹かれる。
スーツも着こなしていたしやっぱり大人なのだろうか?
瑞希よりも背も高いし、身体もがっしりしている。
かっこよくて、そんな人が自分の部屋にいるのにちょっとどきどきしてしまった。
いや、だめだから。瑞希は自分で頭を小さく振った。
きっと着ていたものも立派だし、自分となど釣り合うはずもない。
そもそもこんなにかっこいいなら女に不自由だってしていないはずだ。
だめだ、と思っても瑞希はそわそわしてきて落ち着かなくなる。
「あの、なんか、飲む…?って…お茶位しかない、けど…」
立ち上がってコップに茶を入れた。
食器も最低限しかない。
何もかもが最低限しかないのだ。
生活に余裕などないから当たり前だ。
じっと宗が瑞希を見ていて、それに瑞希はどきりとしたが顔を繕った。
今まで動揺してたからか宗に取り繕ったところが全然出ていなかったのに初めて気付いた。
「な、何?」
「色素薄いね。髪も茶色い。…同じだけど、雰囲気は全然違うな…」
同じ?
何が?
瑞希は首を傾げた。
「……本当にいていいわけ?」
「…いい。その、俺、慰謝料とか、払えないし…」
「別にそんなつもりはないって言っただろ」
「…だから、治るまでは…」
これはもしかしなくても言い訳なんじゃないだろうか…?
もしかしたら、なんて不埒な考えがあるから…?
いや、違う!
ちょっと動揺してしまったけど足元を掬われないようにしなくては。
「…ふぅん?」
宗がふっと笑った。
何に笑ったんだろう?
「警戒しなくてもいいよ。男に興味ないし、金も困ってないから」
「べ!別にそんなんじゃ」
かっと瑞希は顔を赤らめた。
そんなにあからさまだったのだろうか。
表情が読めないといわれるのが常だったのに!
「なんで安心して?ちょっと置いててくれればいいから」
「それは……責任ある、から」
「足はね。それ以外は気にしなくていい。まぁ、足だって湿布して動かなきゃすぐよくなるでしょ」
宗は我が物のようにベッドに横になった。
いつも瑞希が寝ている簡易ベッドに人がいるのにやっぱり落ち着かない。
部屋、綺麗にしといてよかった、と場違いな事を考えた。
ボロだけど、汚らしくはないはず。
いや、この人にしたらどうか分からないけれど。
とりあえず嫌悪感はないみたいなのに瑞希は安心した。
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