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僕の好きな人 36

 「いいか。宮下に近づくときは気をつける事。言われた事は鵜呑みにするな。俺の事で何か言ってきたらちゃんと俺に確かめろ!……お前騙されやすそうだよな…」
 はぁ、と世那が溜息を吐き出す。
 「……初めの時なんか…俺に取って食われるかのようにびくびくしてるし」
 「……だって…」
 「まぁ、それはいいけど……本当に宮下の事じゃなくて、俺の事が好きなんだろうな?」
 「好きっ。だって……キス…会長のはやだった…世那のはヤじゃない」
 「……ならいいけど」

 ……どんだけ信用ないんだろ? 
 いくらなんだって好きかどうか位自分で分かる、とむっと譲は口を尖らせた。
 それを世那が見てぷっと笑うと譲の尖らせた口を指で摘んだ。
 

 ご飯の用意してシャワー浴びて、いつもと同じようにリビングで、と思ったら世那がリビングの電気を消してしまう。
 「テレビ見るなら俺の部屋でいいだろ」
 「う、うん」
 もしかして世那はやっぱりずっと譲に付き合ってリビングにいてくれたのだろうか…?
 「譲」
 世那が譲の背中を押すようにして先に階段を上らせた。
 「お前階段転げそうだからな」
 くくっと笑われる。

 「そんなに頻繁にではないですっ」
 「…たまにはあるんだ?」
 「………」
 ないとはいいきれなくて思わず黙ってしまうと世那はずっと含んだように笑っている。
 「こけるなら俺いる時にしろ。ちゃんと受け止めてやる」
 「………………うん」
 もう何言ったって世那には笑われるみたいだ。
 世那の部屋で世那と並んでベッドに寄りかかりながらテレビを見て、欠伸を頻繁に漏らすようになると世那に寝たら?と声をかけられた。

 そうなんだけど、なんか勿体無い気がする。
 世那の部屋で世那と並んで…。
 好きって……。
 キスした…。
 思い出すとかぁ、っと顔が赤くなってくる。
 「譲?」
 「ね、ね、ね、寝る…」
 すくっと譲が立ち上がると世那が譲の腕を掴んだ。

 「おやすみなさいのキスは?」
 世那が譲を見上げながらとんでもない事を言ってくる。
 「い、い、い、いいっ!お、お、おやすみなさいっ」
 「………いい、って…いらねぇのかよ」
 …そうじゃないけど…。
 「譲」
 立ち上がった譲だったが、世那にぐいと腕を引かれてよろけると世那の腕の中に抱き寄せられた。

 心臓がっ!
 ものすご~くうるさい位どきどきしてる!
 譲が身体を小さくして目をぎゅうっと閉じてると世那が笑っている。
 「…嫌なのか…?」
 ぶんぶんと首を横に振る。
 でもキス、って言ったのに世那はくすくすと笑ってるだけで一向にキスしてくる気配はなくてそろ、と片目を開けてみた。
 「せ、せ、せ、な…」
 ごくっと喉が鳴ってしまう。
 だって目の前にカッコイイ顔がアップであった!

 「譲…」
 世那が笑いを止めて譲の顎に手をかけ顔を斜めに近づけてきたのにまた目をぎゅっと閉じる。
 …けど、キスされない…。アレ?と思って薄目を開けるとくすと世那が笑って軽くキスした。
 かぁっと顔が熱くなってくる。
 一回離れたと思ったらも一回…。
 「は……世…那……」
 世那の唇がはなれると恥かしくて世那の胸に隠れるように顔を埋めた。
 「………慣れるのにどん位かかるかなぁ…?」
 くっくっと世那が笑ってるのが身体から伝わってくる。

 世那は慣れすぎだと思う!
 ………他の人ともきっとあるんだ…。
 思わず顔を上げてじっと世那の顔を見た。
 ……だよね…あるに決まってる。
 女子も言ってただろ…会長と世那と人気の二人って…。
 …分かるけど。

 「ん?どうした?」
 「…な、な、なんでも…ない」
 今は譲の事を好きって言ってくれたんだから!
 ……って…自分のどこが好き?
 どこにも好かれる要素なんてないと思うんだけど…。
 眉間に皺が寄って頭を捻る。

 「譲?何難しい顔してんだ?」
 「え?あ、な、なんでも、ないっ」
 あわわと譲が慌てて、そして世那から離れようとしたけど世那の手が離してくれない。
 「慌てるな。お前慌てるとろくな事ないから」
 あっちにぶつけたり、転んだり、ぶちまけたり…確かにそうだけど…。

 「じゃあゆっくり寝ろ。あと一週間で親帰ってくるだろうけど、それまですっかり譲に任せっきりでわりぃな…」 
 「ううん!それは全然…というかどっちかっていうと僕の方が世那に全部おんぶに抱っこだと思うけど…」
 「それはいくらでも」
 くすと笑って譲の耳に世那がキスするのがくすぐったい。
 「おやすみ」
 世那の手が譲を離した。
 「うん…おやすみなさい」
 へへ、と譲は照れた笑いを浮かべてほわほわした気持ちのまま隣の自分の部屋に戻った。
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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