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僕の好きな人 42

 どうにも疚しくて挙動不審になってしまう。

 でもして欲しくないんじゃない。
 …ただ、世那は欲しい、なんて言ってたけど…それがどうしても理解出来なくはある。
 だって…自分なんかのどこがよくてそんな風に思うんだろう…?
 はぁ、と溜息を吐く。
 「…どうした?」
 電車の中でぴったりと寄り添うように世那が譲の後ろに立ってくれ、譲は手すりに小さくなって掴まっていた。
 混んでるんだけど、世那が囲ってくれているようになっているので全然ぎゅうぎゅうな感じがしない。

 「な、な、なんでも…ない」
 思わず俯いてしまう。
 ………落ち着かない。
 自分からキスとか、世那との事想像してとか、なんか自分にはあまりにも不似合いすぎてくらくらしそうだ。
 こんな事ばっかり考えているのもまた恥ずかしくなってくる。
 焦って体を縮こませて小さくなってるとはぁ、と後ろから世那の溜息が聞こえた。
 一人で慌てて焦っている譲に世那は朝から何回も溜息を吐き出している。

 …嫌になる…かな…?
 そっと不安になって世那を振り返って見上げた。
 「……どうした?」
 世那がちょっと屈んで譲の耳元に囁くのにふるっと震えてううん、と頭を小さく横に振り、また俯く。
 世那の声が近い…。
 なんでこんなに過剰に反応してしまうんだろう?

 もう世那の何もかもに身体が敏感に感じてしまう。
 触れられても、触れられなくても、近くにいるだけで神経が全部世那に向かっているんだ。
 途中でいつものように会長が乗ってきたけど全然上の空で世那の事しか考えられない。
 自分のクラスで自分の席に座ってやっとはぁ、と安心して脱力した。
 ……なんか変な緊張してすごく疲れた。
 馬鹿みたいに世那の事だけしか考えていないんだから…。
 こんなおどおどしたような態度じゃ世那が溜息吐くのも分かるけど、自分でも気にしすぎてどうしようもないんだ。
 

 今日も生徒会の役員会。
 これから学園祭が近いのでどうしても多くなってしまう。
 世那は保健室で寝てる、と言って待ってくれているけど、ホント申し訳なくなる。
 譲の為だけに世那がそうしてくれているんだ。
 もう少ししっかりしてれば世那を煩わせる事ないのに…。
 情けなくなってくる…。そのくせやっぱり世那に甘えてるんだから救いようがない。
 帰りの電車でもどうしてもしゅんとしてしまう。
 横には背の高い世那と会長が立っていた。いつも堂々としている二人に挟まれるようにしてショボイ自分が真ん中にいるのがいたたまれない。

 「今日は高橋くん元気ないね?どうしたんだい?」
 「なんでも…ないです…」
 帰りの電車は行きの時よりもずっと空いている。
 「天間に何かされた?」
 ぶんぶんと譲が首を横に振った。むしろ迷惑かけてるのも勝手に色んな想像してるのも自分の方だ。

 「……てめぇはなんで朝も帰りも引っ付いてくんだよ」
 苛立った低い世那の声。
 「天間に何か嫌な事でもされたらいつでも相談するんだよ?」
 そんな苛立った世那の声に怯むこともなく会長が優しく言ってくれる。なんで会長もそんな優しい事言ってくれるのかな?
 「世那に…やな事…なんてないから…」
 世那の方が譲を嫌なる事ならあるだろうけど…、譲からはない。

 「……そう?脅されてるんじゃないの?」
 「するか!」
 世那が吐き出す。
 「じゃあ、また明日ね」
 会長が降りる駅でそう言って降りていけば世那と二人で、そのまま世那とは黙って電車に乗っていた。
 なんか世那もそういえばずっと黙ったままだ…。
 空気が重い気もするけど、どうしても自分の疚しい気が消えなくて譲もつい黙ったままでずっと俯いてしまう。
 世那に触れたい。
 触って欲しい。

 「譲、降りるぞ」
 「あ、……うん」
 いつの間にか降りる駅になっていたのに世那に声をかけられた。
 でも…あれ…?
 いつも世那が守ってくれるように譲の背中に触れてくれるのに…ない。
 時間が遅くて西高の生徒が少ないから、…だよね…?
 それでも譲のすぐ後ろに立ってまるで睨みをきかせるかのようにしてくれるのにほっとする。
 そのまま何事もなく家へ。

 何もなく、何もなく、時間はいつもの様に過ぎていく。
 シャワーを浴びて、昨日は世那の部屋で並んでいた時間も今日はリビングだ。
 そして譲が欠伸をし始めると寝るか、と電気を消して二階へ。
 「おやすみ」
 「……おやすみ、な…さい…」
 …キスしない…の…?
 そのまま世那は自分の部屋へ入ってしまった。
 …どうして?

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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