はのんのBL部屋

　無言のまま…。
　世那は話をするのも嫌になっちゃったのかな…？
　歩いている間も電車に乗ってもただ傍にいるだけ。
　終始譲は顔を俯けて目が潤んできそうになるのを堪えていた。
　会長は今日は普通に部活に行っているらしくいない。
　いや、それだって…二人が傍にいるのが普通じゃないんだ。
　会長と世那と並んでいるのが普通じゃないのに、それが当たり前のように思ってるのが間違ってるんだ…。

　「譲」
　唯一家近くの駅で世那が譲に触ってくれた。
　嬉しい、とびくんと身体が反応してしまう。
　「……ちょっとだけだ。我慢しとけ」
　世那が小さく譲の耳に囁いた。
　我慢？何が？

　「メガネちゃ～ん！」
　ぎゃははという笑い声。　
　「おう、世那！学園祭近いだろ？遊び行ってやる」
　「来なくていい」
　世那の手が譲の肩をぎゅっと力を込めて触れてくれている。
　そして西高で一番最初に世那に話しかけてきた派手な人に世那が睨みながら返している。
　「行くぞ」
　世那がぐいと譲の身体を守るように西高の壁の中を連れ出してくれる。

　世那に縋りたくて手を出しかけたけどそんな事されて世那は嫌かもしれない。今は西高生が多いからこうしてくれているだけなんだ。
　…本当にそのようで、駅の構内を出たら世那の手が離れたのに譲はがっくりしてしまう。
　それにしても、我慢しとけってどういう事？
　何が我慢？
　分からない…。
　そして離れてしまった世那の手に譲はまた顔を俯けた。

　…泣きそうだ…。
　世那は譲のちょっと後ろを歩いて話しかけてもくれない。
　家に着いても無言のままで段々と心細くなってくる。
　我慢しとけとか…どういう意味？
　聞いていいの？
　…なんでも聞け、って世那は言ったけど、だんまりのままの今はとてもじゃないけど聞ける雰囲気じゃない。
　階段上がるのも譲が先で世那の顔が全然見えないんだ…。世那はどんな顔してるの？嫌な顔してるのかな…？

　怖くて振り向けない。
　黙ったまま自分の部屋に入って着替えを済ませた。
　いつもはすぐ一階に下りていくけど、部屋を出るのが怖い。
　どうしよう…？
　でもいつもと違ったら世那だって変に思うはず…。
　空になった弁当箱を持ってそっとドアを開けて一階に向かった。
　すぐに世那も弁当箱を持ってくる。
　「…毎日悪いな」
　悪くなんかない！

　…なんでそんな事言うの？
　それ言ったら譲の方がずっと世那の迷惑なのに…。
　世那がなんかよそよそしい…。
　そしてやっぱりそのまま時間が過ぎてしまう。
　ずっと話もしないでリビングにいるのが辛い。
　隣に擦り寄りたいのに世那は拒絶しているようで、離れてソファに小さく座る。
　シャワーもして、世那の部屋に行ってキスしたりしてたのに、今日も行く気がないみたいで、世那はリビングでソファの肘掛に肘をついてリモコンを操っていた。

　「…僕、部屋行くね…勉強するね…そんな頭よくないし…」
　「……そう？」
　じゃ、と世那はテレビを消して立ち上がるとリビングの電気も消していく。
　なに…？譲が部屋に戻るから世那も部屋に入るの？
　今日は譲は世那の部屋に行っちゃダメってこと…？
　…キスもしてくれない？手もずっと離れたまま…。
　譲は顔を俯けたまま階段を上る。目が潤んでくる。

　「おやすみ」
　世那がそう言って部屋に入ってしまう。
　バタンと閉じられたドアが譲を拒否していた。
　…嫌、なんだ……。
　キスして欲しい…なんて浅ましい事思っちゃいけない…。
　それ以上とかも…。
　あんな事…夜に考えたから…？
　して欲しいとか…。

　苦しくなってもう我慢出来なくて涙がこぼれてくる…。
　部屋に慌てて入って大きい眼鏡を外して机に突っ伏した。
　やだ…。
　「せな……」
　小さく名前を呼びながらだらだらと泣いてしまう。
　どうしたらいい？
　声を漏らさないようにして泣く。声を出したら世那に聞こえてしまうかもしれない。
　でも聞こえたってもう世那は譲の部屋に来てもくれないかもしれないけど。

　…そんなのやだ…。
　なんでも聞いていいって言ったのに…嫌って事ないって言ったのに…。
　でもダメなんだ…。
　しばらく譲はそのまましゃっくりが出るまで泣いてしまった。
　一回だけ…一回だけ…世那の部屋に行ってみよう…。
　このままじゃ寝られそうにもなくて目を真っ赤にしたまま、どうにか涙を抑えて鞄から数学の教科書を取り出して手に持った。
　分からない所教えて、と言ったら部屋に入れてくれるだろうか？
　姑息だ…と自分でも思うけど、大義名分がないと自分からなんて行けそうにもないんだ。

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続きに拍手コメお返事です～^^　
　

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学