【 宗視点 】
車と接触した時はしくじった、と思ったが、思わず寝床が確保され、男だが目の保養には十分な容姿の相手で宗は満足した。
アパートは狭いし、本人が言うようにボロではあったが部屋は小ざっぱりしていた。
桐生と同じような白い肌に茶色かかった髪。
背も同じ位か?
でも雰囲気は全然違う。
桐生が毛並みのいい綺麗な真っ白な誰にも懐かない貴族の猫ならこれは山猫の類だ。
退屈しないかも、と宗は鬱蒼と笑みを漏らした。
しかし本当に部屋にも何もない。
大学生で車もあるのに?
どうも分からない。
けれどどう見ても部屋を見る限りでは贅沢など何もない。
必要最低限の物しかないのだ。
どうにも読めない。
ホストをしてるといったわりに派手さはない。
着ているものも清潔だが、言っては何だがあまり物はよくない。
元の素材がいいのに勿体無いとも思う。
宗がベッドに横になると困惑したように固まっていた。
狭い簡易ベッドで宗の足がはみ出してしまう。
はたとこの狭いベッドを宗が占領してしまったら彼の寝床がなくなるのに気付く。壁際に置かれたベッド。下は寒そうな床。カーペットも何もない。
さすがに他人の部屋に転がり込んでベッドを一人で占領はまずいだろう。
だからって野朗二人でベッド?
…早まったな、と少々げんなりする。
「お、俺、シャワーしてくるけど…?」
「どうぞ。俺は出掛けに浴びてきてるから」
慌てたように瑞希が着替えを持って姿を消した。多分風呂もなくてシャワーだけなのだろう。そして間違いなく狭いだろうな、とシャワーの音が部屋に聞こえてくるのを聞きながら部屋を見渡した。
すぐに瑞希が戻ってきた。髪が濡れて肌顔が上気してるのにちょっと目を惹かれた。
これなら別にいいか?
妙に色気がある。
相手は野朗のはずなのだが。
「おい」
声をかけて宗は横向きになって壁際に身体を寄せベッドにスペースを作った。
「な、何?」
とんとん、と開いたスペースを手で叩いた。
瑞希が驚いた顔をしている。
「床じゃ寝られないだろ。それに予備の布団なんかもないんだろ?」
「そ、そんなの、な、ない…けど」
瑞希の声が動揺して上擦っている。
意識してるのか?
ただの野朗同士なら気持ち悪いだけだろうが、そういった様子ではないらしい。もしかして、と思ったがそれに対して宗も嫌悪感が湧かないのが不思議だった。
ふぅん…。
「い、いいよ。俺、床に…」
「硬くて寝られるわけないだろ」
「で、でも…」
大学4年なら宗よりも4歳は上だろうにとてもそうは見えない反応だ。
慣れていないのか?
いや、というか意識してるという事はもともと男の方が好きなのか?
男相手にどうこうするつもりなど毛頭なかったがちょっと興味を引かれる。
怜のコンサートを見た後で引きずっていた複雑な感情はすっかりなくなっていた。
なくなってはいたが、きっと今日は桐生は怜にさんざん啼かされるだろう事もあのコンサートを思い出せば簡単に想像がつく。
桐生と同じような白い肌と茶色の髪。
全然似てはいないが…。
手を出すつもりなんてなかった。男にいくほど困ってもいない。
しかし…。
「男同士なのに何か気にするわけでも?」
挑戦的に宗が言えばむっと瑞希が顔を顰めた。
「…別に。いつもなら働いている時間だしまだ眠くなんてない」
「それは悪かった」
「……悪いのはこっちだから」
瑞希が顔を俯けた。
噛み付いてくるが車で引っ掛けたのがよほど心に突き刺さっているのだろう、すぐに威力が減退する。
面白い。
「…どこの大学?私学?国立?」
「国立」
「なるほど」
頭もいいのだろう。そしてこの就職難のご時勢に就職先も決まっていると言ったんだから出来るんだろう。
瑞希は床に座った。
「…足は?」
「ずきずきするけど我慢出来ないほどじゃない」
答えればほっとしたような表情を浮べる。
「ええと…宗、は何、してる…?」
語尾が迷ってるのに笑いそうになった。
二階堂さん?、なんて始めに言う位じゃ自分よりも年上だと思ったんだろうか?
確かにスーツを着ていたが。
まだ高校生なんて教えてやる必要などないだろう。
「内緒」
くっと宗は笑った。
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