「世那…」
おはよ…と小さく囁いて世那にキスすると世那の腕が譲の身体を抱きしめた。
「…やっぱいいな」
くすと笑って世那が手を離すとベッドから起き出す。
昨日はなかったけど…よかった、と譲はベッドに半身起こした世那に抱きついた。
好き…。なんでこんなに苦しくて幸せなんだろう?
抱きついた譲の髪を世那が撫でてくれる。
「…寝癖ついてるぞ?」
「え!?」
慌てて髪を撫でるけどそんなので直るはずはなく、慌てる譲を見て世那が笑う。
笑われても寝起きでもやっぱ世那はかっこいいなと譲は見惚れてしまうんだ。
昨日は陰鬱とした気分だったけれど、今日は朝から世那とキスして、家を出る前もキス。
つい嬉しくなってしまう。
電車でも昨日よりもずっと近しいしついつい顔に締まりはなくなってしまう。
…元々自分の顔に締まりなんかないに等しいけど。
「おはようございます」
「おはよう………」
会長が電車に乗り込んでくるとじっと譲を見た。
「?」
なんだろう?何かを計るように見られているのに譲は首を傾げた。
「…ふむ…まだ、か。随分天間にしては慎重だな」
「…うるせぇ。中学生の方が楽に進められるって言ったのはお前だろ」
「……そうだね」
くっと会長は笑って、何に笑ったのだろう?と後ろに立つ世那を見上げれば世那は苦虫を潰したような表情だ。
「?」
…それにしても世那と会長って仲がいいのか悪いのか。
いや、いい、ってわけではなさそうだけど。
「世那と会長って高校なってからのお友達?」
「友達~?んなわけねぇだろうが!」
ばぁか、と世那がごつっと頭を譲の頭に軽く頭突きした。
「駅ちょっと離れてるから中学校が一緒、でもないよね?」
頭突きっていったってこつっと触れる位のもので痛いわけじゃない。
「天間とは中学校の時に塾が一緒だったんだ」
会長の答えになるほど、と思わず納得してしまう。
進学校で、運よくひっかかって受かった譲とは違い会長は勿論トップで世那も上位をキープしてるって噂だった。
世那は家で全然勉強している感じには見えないんだけど…。
なんでこの人達は格好もいいのに頭までいいんだろう?
……ずるい、と思わず思ってしまう。
譲なんて背も低いし頭だってそこまでよくないし、かっこいいからかけ離れているのに。
…自分なんかと比べるほうが間違ってるってのはよく分かってる。
しかもそんな二人に挟まれて登校なんだから目立ちまくりだ。
…というか会長はなんでわざわざ一緒に乗ってくるんだろう?
世那が一本電車を遅らせてもちゃんと会長も遅れて乗ってくるんだから…。
「高橋。天間先輩とはどうなの?」
女子に囲まれて採寸。
学園祭でのコスプレ衣装の為らしい。
もう男子は女子に言われるがまま動いている状態だ。
世那でも女子の集団には勝てないって言っていたくらいで、譲が元から敵うはずはないので早々に戦線離脱でいいなりになる。
「どうって…」
「え~!高橋まじかよ!?」
同じくちんまい男子仲間がうわぁ、と声を上げたのに譲は顔を俯ける。
内緒って言ったのに…女子もなんでそんな事聞いてくるかな、と逃げ出したくなってしまう。
「モブうるさい!高橋見なさいよ!普段はダサ眼鏡で隠れてるけど!」
ばっと眼鏡を取られた。
「ばさばさの睫!すべすべお肌!ぷっくり唇!天然さ加減!どことっても天性の受けでしょうが!それに比べたらあんたなんかただ背のちっせぇ女にも男にももてないただのチビだ!」
ふん!っと女子のリーダー格が鼻を鳴らす。
「いい?高橋苛めたら承知しないからね?女子全員敵に回すと思いなさいよ?いっとくけどウチのクラスだけじゃないからね?」
に~っこりと女子が微笑んでるけど…。
え~、と声を上げた男子はただ青くなってこくこくと頷く。
「分かればよろしい」
…怖い、と仲のいい男子に視線で助けを求めるけど皆知らん顔だ。
薄情だ…。…と思ってもきっと譲も同じようにしてしまうだろうから強くも言えないし、黙ってスルーしておいた方がいいかな、とだんまりを決め込んだ。
「高橋!可愛く変身して天間先輩をGETだ!大丈夫!天間先輩のクラスの女子の先輩も強力してくれるから!」
「……え?」
ね~!と女子が頷き合ってるのがますます怖い。
「大丈夫!天間先輩には内緒だから!」
ふっふっふと笑っているのが怖い。
……一体何がどうなってしまうんだろうか…?
ちょっと学園祭の先行きに不安を覚えてしまった。
テーマ : 自作BL小説
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