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僕の好きな人 50

 そんな毎日が過ぎて週末。
 風呂場での世那のいう準備は身体洗うついでに続けた。世那とのキスも毎日。
 準備いいと思うんだけど…と思いつつもまさか自分からOKとも言えずにいた。
 それに期待して待ってるなんて思われるのもどうか、と思うけど…でもどうしても考えてしまう。
 お父さんとお母さんが帰ってくるのは日曜日。

 …もしお父さんとお母さんに知られちゃったらどうなるんだろ?
 ずっと世那と二人だったから考えた事なかったけど…。
 男同士で、とか義理でも兄弟で、とか…言われるんだろうか…?
 そういえば…。
 「ね…世那…どうして兄貴じゃない、って…初めに言ったの?」

 今なら聞いてもいいだろうか?
 学校帰りの電車の中で並んで立ってた世那に小さく聞いてみた。
 「ん?ああ…だって初めは兄弟とかって懐かれてもうぜぇな、と思ったから」
 「…ひど」
 「わりぃ」
 くくっと世那が笑ってる。
 「……それ…僕、だったから?」
 譲は顔を俯けた。

 「ん?何が?」
 「だって…ほら…僕なんか…」
 ぴし、っと世那が軽く譲の額にデコピンした。
 「お前でよかったよ。もし宮下みたいなんだったら毎日喧嘩だな。…兄弟なんて言われても何も関与するつもりじゃなかったんだが…お前ときたら片付けしてるはずなのに片付けはできねぇし、階段では落ちそうになるし…これは西高の奴等に目付けられるな、と思ったら俺が見るしか仕方ねぇだろ?……お前の事が放っておけなくなったんだ」
 「…ん…」

 「兄貴じゃないってのは、最初はそうだったけど…あとはもう根本的に意味が違う…だろ?」
 世那が譲の耳にそっと囁いた。
 「まぁ、一般的には兄弟でよかったのかも、とは思うけどな。こうやって一緒にいたって納得されるしな。同じ家に帰るのだって」
 「………ん」
 そうかも。
 「最初は危なっかしいなとか…そんなんだけだったんだけどな…」
 世那の唇が耳に近い。
 くすぐったくて身体を捩ろうとしたら耳にキスの音が小さく響いた。

 「せ、せ、せ、せ、な…」
 ここ!電車!
 「…誰も見てねぇよ」
 くすと世那が余裕の笑みを見せるけど、譲は真っ赤になってさらに顔を俯けた。
 「ほら、もう駅着く」
 世那の腕が譲の肩を抱きかかえた。
 駅は西高生の壁があるから…。

 「西高の集団も役立つよな…公衆の面前でもお前にこんな事しててもきっと誰でもお前を守ってやってるようにしか見えねぇもんな」
 …そういう問題と違うと思うけど。
 実際、守ってくれているのもその通りだし…。世那がいなかったらとてもじゃないけど譲は無事ではいられないはずだと自分でも確信出来る。
 でも確かにそうだ。世那にぴたっとくっ付けるのが嬉しいから。

 そう…一緒に学校行くようになって学校の近くになると世那が離れるのが嫌だったんだ。
 今はそんな事もなくて、クラスまでも迎えに来てくれるようになったんだ。
 世那に庇われながら、西高生に揶揄される中、駅を出た。
 譲と違って世那は背も高いし肩幅も広くて、きりっとしててかっこいい。
 譲なんか女子に天性の受け、と断言されてしまうのに…。
 あの女子に喧々囂々とやられ、ただのチビと言われるのとどっちがいいのかといえば微妙な気もしてくる。

 「譲?どうした?」 
 「え?あ、ううん!なんでもない」
 天性の受け、とか言えない…。
 そして世那の事は王子サマ呼ばわりされてるなんて…。
 王子サマって柄じゃないと思うけど…。
 会長なら王子サマって感じが似合うけど、キツい眼差しの世那に王子サマはちょっと違う感じがするなぁ、とか世那の顔をじっと見て考えてしまう。
 「なんだ?」
 「え?なんでもない…」

 かっこいいな、と思っただけだ。
 ……言った方いいかな…?
 「世那が…かっこいいな…って思ってただけ」
 「……………どうも。お前がそう思うならいいけど。目つきよくねぇのは自分でも分かってっけど?お前だって最初はビビリまくりだっただろ」
 「…そう、だけど…それは噂がすごかったから…そういう人なんだと思って…でも世那は全然違うし…優しいし…」
 「………お前だけにな」

 世那が駅を出ても肩を抱いたままでいてくれるのが嬉しくてつい顔が締まりなくなってしまうと、その譲の顔を見て世那がくっと満足そうに笑ってる。
 きっと譲が好きだ、とかかっこいいなとか、嬉しい、とか思ってるのが世那には分かってしまってるのかも。
 だってキスももっと、って譲が思うと必ず世那は聞いてくるし。
 世那の言う物欲しそうな顔になってるんだろうとは思うけど。
 好きじゃなきゃそんな風にはならないから…。

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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