「いってきます~」
土曜日、学園祭の為に今日は登校。
玄関で世那と一緒に靴を履く。
「じゃあ、あとお母さんとお父さんも出かけるから。世那くん、譲、よろしくね」
「はい」
世那が当然と言わんばかりに頷いているのがくすぐったい。
今日は帰ってきたら……。
学園祭よりも世那と二人っきりでべたべた出来るだろう事の方が嬉しい。
むしろどっちかといえば学園祭は休みたい位だ。
世那には女装の事は言ってなかったし内緒。…だって見られたくもない。
「お前クラスの当番午前中って言ったよな?変わりないな?」
「うん」
「俺もだから終わったら迎えに行く」
「………うん」
当番終わって急いで着替えれば世那には見られなくて済むかな…。
偶然にも世那と同じ時間帯で当番でよかった、と譲は胸を撫で下ろす。
おまけに当番終わればあとは世那と一緒にいられるし。
「あ、でも午後から生徒会室行かないと」
「いいよ。分かってる」
駅に向かいながら世那の手が譲の頭をぐりと撫でた。
あんな格好…世那に見られたら大変…。
クラスでの衣装合わせでその衣装が凄いことになっていた。
女子の手作りだったけど、なんでそんなに凝るのかなぁ、という位にひらひらとかが凄いことになっていたんだ。
白雪姫、とか言ってたはずなのになんかもう全然別物にエスカレートしていってただのひらひら衣装。かろうじて何となく白雪姫っぽい?という感じ。だってスカートの丈も短いし。お姫様とちょっと違うような…と思ったって、結託している女子に何も言えなかった。
「世那は執事の格好?」
「………………………ああ」
かなり不本意そうに頷くのに思わず笑ってしまう。
「…見たいなぁ…きっとかっこいいもん…」
「……見せらるか!」
自分の姿は見せられないけど、世那のは見てみたい。
「おはよう」
「おはようございます」
会長が電車に乗ってきたけどその会長がじとりと世那を睨んでいたのに譲は頭を捻った。
「今年は天間かな…」
「何がですか?」
「ミスターの座。高橋くんのせいで天間の株が急上昇だ」
「???」
なんの事だろう?と首を傾げた。
「怖くて乱暴で暴力沙汰と噂だったのに、高橋くんがべたべたに甘えてるから、そんなに怖い奴じゃないのかな、と思われ始めている」
世那はふん、と鼻をならしてどうでもよさそうな態度。
「元々そんな噂流したのお前だろうが」
え!?
世那が会長に向かって言った言葉に譲は大きく目を見開いた。
「まぁそうだけど」
会長も簡単に頷いてるけど…ええ?そうなの?
じっと譲の後ろに立つ世那を見上げた。
「暴力沙汰は間違っちゃねぇけど、なんで、が抜けてる」
「わざとそこは省いたからねぇ。カツアゲされてた子を助けたなんて」
会長が肩を竦めるのにそうなの?と世那に目で聞くけど世那はそんなのどうでもよさそうな感じ。
「な…んで?どうして…?会長が?」
?マークだらけにして譲が会長を見て聞いたら会長はくすっと笑う。
「腹いせ」
腹いせ?何の?
「俺はかえって煩わしくなくてよかった位だ。最近は女子にもいいように言われまくりだし…」
「女子も天間がそんな誰彼に手を上げるような奴じゃないと分かって増長しまくりだからな…」
「……お前は実に楽しそうだが?」
「僕?僕は楽しいよ?」
くすと会長が笑う。
「高橋くん、こいつの格好見ない方がいいよ?」
「え?そうなんですか…?会長も同じ格好…?執事って言ってたけど…」
「コンセプトは執事カフェだったんだけどねぇ~…執事より派手派手だね」
……あ、なるほど…。世那のクラスも女子が仕切ってるのか…。
思わず納得してしまう。
「なんでなんなに燃えるのかなぁ…」
「高橋くんのクラスも?高橋くんは裏方って言ってたよね?」
「え?あ、はい!」
思わず目が泳いで挙動不審になってしまう。
世那にも一回裏方だと言ってからは突き詰められた事もなかったので油断していた。
「…譲?」
あわわわとなった譲に世那が怪訝そうな声を出した。
「何?」
どうにか取り繕って返事する。
「……………お前…ホントに裏か?」
「裏だよ!」
世那に来られちゃったら大変だ!あんなの誰にも見せられないよ!
特に世那には見られたくないし!
そう思ってたのに世那と会長までがじいっと譲を見ている。
「譲くんのクラスはメイドカフェだったはずだけど…。サプライズがあるとかなんとかと出し物の説明に書いてあったな…サプライズって何?」
「サプライズなんで内緒ですっ」
会長いちいち他のクラスの出し物の説明まで覚えてるのぉ?
ちら、と後ろに立っている世那を見上げると世那の目が疑わしそうな色を浮かべていたのに譲は思わず視線を背けて顔を俯かせた。
テーマ : 自作BL小説
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