そりゃ、莉央は仕事中だし!パートさんだっていたし!プロポーズなんて本気にしてたわけじゃないが!
せめてもうちょっと余韻を味わったっていいだろう!?
むかむかが治まらない。
…そして今度は悲しくなってくる。
バレンタインデーで虹なのに…。
莉央にとってはもう虹はどうでもいい事になってしまったのだろうか…。やっぱり3回目の虹なんて…プロポーズなんて言っててそれを避けたのだろうか。別に綾世はそれを望んでるのでもないのに…。プロポーズなんてしなくても…一緒にいられればそれでいいのに…。
大体にして男同士なんだからプロポーズと言ったって結婚出来るはずもないのに。莉央が自分で言ってたのに逃げるってどういうことだ!?
「………はぁ…」
考えれば考えるほど泣きたくなってきた。
「あの…川嶋さん…?」
「何?」
つい口調が冷たくなってしまう。
「オーダーお願いします」
「どうぞ」
つっけんどんな言い方。仕事に私情を出すなんて自分的には許されない事なのだが、どうにも感情が治まらなくて、バイトの子達が恐る恐る綾世の顔色を窺っているのが分かる。
つい、いつもよりもガチャガチャと器具の取り扱いが雑になってしまう。
こんなに自分の感情がコントロールできないなんて…。
以前は何があっても表に出るような事はなかったのに。…莉央の事になってしまうとダメだ。
特に今日は虹も絡んでいるから余計にだ!
がちゃん!とフライパンを置くとバイトの子がびくん!と体を震わせている。分かっているけど!物に当たりたくなってしまう。
………いい年して何をしているんだろうか…。
はぁ、と溜息を吐き出して綾世は頭を抱えた。
「こんばんは~」
そろりと莉央が裏口から顔を覗かせた。
「莉央さん!」
バイトの子が莉央の登場に助かったと言わんばかりにほっと安堵の表情を浮かべながら莉央に助けを求めるように縋って、またそれに綾世はむっとしてしまった。
「何!?莉央は帰ってていい!」
「…あれ…?…綾世さん…どうしちゃった…のかな…?」
綾世の不機嫌に莉央が目を白黒させている。
「莉央さーん…川嶋さん、もうずっと不機嫌で…怖いんです」
こそこそと話してたって全部聞こえている!
「…あれ…?……あ……」
莉央が口を押さえた。
「莉央……帰ってていいっ…」
「やです」
ぴくりと綾世の片眉が跳ね上がった。
「終わるまで待ってます~」
全然綾世の不機嫌も気にしないような莉央の言い方にますますむっとしてしまう。
何が待ってます~だ!虹もどうでもよくなったくせに!
イライラと綾世の苛立ちが強くなってくるのだが、莉央はどこ吹く風でニコニコ顔で洗い物など手伝っている。
洗い物のバイトの子はこれ幸いにと思ったのか厨房から逃げ出してホールの手伝いに行ってしまった。
バレンタインデーでデートのカップルの予約でいっぱいだったので忙しいは忙しいのだが…。
「綾世さん?バレンタインデーの料理なのに眉間に皺寄せてちゃダメでしょ?」
いったい誰のせいでこんな風になってると思うんだ?
じろりと莉央を睨むと莉央が肩を竦めた。
「…可愛いなぁ~…もう…」
にやにやと莉央は締まりない顔。
いったい何がどうして莉央はそんな平然としているんだ!?
「予約あとどれ位?今日早く終わります?」
「………知らない」
綾世がつんとして答えても莉央は全然気にしないで鼻歌でも歌いそうな位に上機嫌だ。
…訳が分からない!
本当にもうどうでもよくなったのだろうか…?
虹も、自分の事も…。
分かり合えていると思ったのは自己満足だったのだろうか…?通じ合っていると思っていたのに…。
いつも莉央は綾世の思っている心の中の事を分かってくれていると思っていたのに…。
上辺しかもう見えてないのだろうか…?
ぐちゃぐちゃと綾世の中が混沌としてくる。
こんなに…莉央の態度一つで綾世はダメになるのに、莉央は分かっていないのか?
虹の事よりも何よりも段々と莉央に対して不安感が増してきてしまう。
こんな気持ちで…バレンタインのケーキとか…渡せそうもない…。
それなのに莉央は上機嫌。
どうしたらいいんだ…?問いただしてもいい…?
でも…そんな事…。元々虹が特別なのは綾世の中でのことで莉央は違うのだから…。
小さく綾世は首を横に振った。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学