はのんのBL部屋

　綾世の不機嫌が治まらないまま店が閉店を迎えた。
　バイトの子は綾世が不機嫌なままなのでささっと手早く仕事を終わらせそそくさと帰っていった。
　そして片付けを手伝う莉央もどこか急いでいる感じ…？
　「綾世さん、ちょっと時間遅いんですけどこれから付き合って欲しいところあるんです。いい？」
　「………別に」

　どうでもいい。
　投げやりな気分で答えると莉央が苦笑した。
　「車取ってきますね」
　莉央がそう言っていなくなる。
　車で今から？どこに行くつもりだろうか？莉央は明日は土曜日で休みだからいいけれど…。
　機嫌はよくはないが折角つくったチョコケーキを持って店の電気を落とし、鍵をかけて外に出れば莉央が車ですぐに現れた。

　その莉央の車の助手席に乗る。
　「…どこに？」
　「内緒」
　莉央は綾世とは正反対にご機嫌だ。
　綾世は莉央と話すのも嫌でベンチシートの座席も莉央からなるべく離れて窓際に寄って座ると、ちらっと莉央がそれを確かめたのが分かった。
　すると車を出してすぐに莉央がカーブをわざと乱暴にして曲がり、綾世の身体がぐっと莉央の方に寄っていく。

　「乱暴だ！」
　「だって綾世さんってば離れて座るんですもん」
　当たり前だ！面白くないんだから！
　「綾世さん？言いたい事あるでしょ？言って？」
　「……別に」
　「全然別にじゃないでしょ」
　「別にいい！」

　莉央がなんとも思ってないのに綾世が言ったって無駄な事だ。
　「…まだ頑なが取れないなぁ～…何でも言っていいのに…」
　言えるか！
　ぷいっと綾世は車の窓から外を眺めた。

　莉央は一体どこに行くのだろうか？夜なのに…。
　泣きたい気分になってくる。世の中じゃバレンタインデーできっと恋人同士で甘い夜を過ごしているはずなのに、綾世の気持ちは沈んだままだ。隣に莉央がいるのに…。なんでこんな気分になっているのだろう…。
　ぼうっとしたまま窓から外を眺める。手にはチョコケーキ。これを作っている時は幸せな気分だったのに…。

　「……俺、信用されてないのかなぁ…」
　莉央がぽつりと呟いた。
　え？と綾世はそっと莉央を振り返った。
　その莉央は苦笑している。
　「…いえ、なんでもないです」
　何？どういう事だ…？
　莉央を信用してない？そんな事はないけど…。ただちょっと悲しかっただけだ。

　「綾世さん、着きましたよ。降りて」
　車が駐車場に止まった。ここは…？
　「あ、ケーキは置いてていいです。あとすぐに車に戻ってきますから」
　すぐに？じゃあ何しに降りるんだ？
　車を降りると莉央が運転席から回ってきて綾世の手を握った。
　「……あの、…莉央…？」

　「綾世さん…こっち」
　莉央が仄かに笑みを見せながら綾世の手を引っ張っていく。
　ここ…は…。
　莉央の手が綾世の手を握ったまま、そしてもう一方の手で重厚な扉を開けた。
　「り、莉央！勝手に入っちゃ…」
　「いいんです。ちゃんとさっき今から伺いますって連絡入れておいたので」
　「…え？」
　ちょっと待て、と綾世の心臓がどきどきしてきた。

　「り…莉央…？」
　「……綾世さんは俺の事信じてなかったみたいですけど」
　そ、そうじゃなくて…。
　ふるふると綾世は首を横に振った。
　莉央に手を引かれて中に入る。中が暖かくなっていて明かりも灯っているが誰もいない。
　莉央が綾世の手を引いて中央の通路を歩きそしてステンドグラス前の祭壇の前に立った。

　「莉央…あ、あの……」
　「綾世さん…愛してます。あなただけです。ずっとこれから先も一緒にいてください」
　綾世の手を離すと莉央はポケットから小さな箱を取り出した。
　心臓がうるさい！顔も熱くなってくる！
　「だ、…って…」
　莉央が箱を祭壇に置き、そっと綾世の左手を取るとその薬指にゆっくりと指輪を嵌めた。

　「…俺の分…綾世さんから嵌めて？……嫌？」
　潤んでくる目で莉央を見つめ小さく首を横に振ると綾世は震える手で莉央の用意した指輪を手に取った。
　「………」
　言葉が出てこない。震えながら莉央の手を取りそっと莉央の指に指輪を通した。
　指輪なんていつ？それに…教会…なんて…！

　「綾世さん？三度目の虹でプロポーズするって言ってたでしょう？返事、Yesでいいんですよね？」
　「り、お…う…」
　「Yes以外聞かないですけど。…綾世さん…誓いのキス。綾世さんからして？」
　ちょんちょんと莉央が自分の唇を指差した。
　「莉央…莉央…」
　綾世は莉央の首に抱きつき唇を重ねると莉央がくすりと笑いながら綾世の身体を力強く抱きしめキスを返してくれた。

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続きに拍手コメお返事です～^^

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学