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2014 St.Valentine’s propose 4

 「俺が忘れるはずないでしょう!」
 莉央が綾世の零した涙を拭いながら怒ったように言った。
 「だって…莉央は…そそくさと…いなくなって…」 

 「そりゃ!焦りましたからね!まさか今日!?と思って!…俺の予定では二人でどこかに出かけた時とか、ゆっくりとした時間の時に一緒に虹を見て、その場でプロポーズ!と思ってたのに!突然ちょっとの仕事の空き時間に、しかもパートさんまでいて…その場でプロポーズなんか出来ないじゃないですか!もうどうしようって頭の中パニックですよ!指輪だけは用意してたからいつでもいけたんですけど、まさかパートさんの前で指輪渡してプロポーズはね…。……本当に焦って慌てて…いくらバレンタインデーとはいえ、エックスデーが今日だとは思ってもみなかったです。どうしたらいいだろうってって考えて…夜でも開けてくれる教会調べたりあちこち電話して…」

 莉央がそっと綾世の手を引いて教会を出る。
 「……指輪なんて…いつ…?」
 綾世は莉央に嵌めてもらった自分の指に嵌まった指輪を見た。
 「あ、別に常につけてなくていいですからね。もろ結婚指輪!なんて見えない物にはしましたけど。俺のとも対には一瞬見えないでしょ?デザインが違っててでも二つ合わせてってやつなので。…ええと…いつは…結構前です。これ買った時に一緒に買ってました」
 「え?」
 莉央が綾世の首にかかっているネックレスを触った。
 これは…出会った年の綾世の誕生日に貰ったものだ。もう一年以上も経っている…?

 「なので箱がボロボロになってます。だって毎日持ち歩いてたんですもん」
 「え…?」
 「だって!いつ一緒に虹見るか分からないじゃないですか!虹見てその場でプロポーズするつもりだったのに…。結局一年以上、毎日、常に箱持ち歩いていたのに、虹見てもその場でプロポーズできなくて!しかも色々聞いたり手配したり全部OKと仕事も終わって店に来れば綾世さんは不機嫌になってるし」
 「………ごめん」
 だって!まさか!そんな…。

 車に戻って莉央の腕に抱きついた。片腕に綾世が抱きついたまま莉央が車を出す。
 「綾世さん、俺が忘れてるとでも思ってたんでしょ」
 「……そうじゃないけど…」
 「嘘だ」
 じとりと莉央に睨まれた。
 「…プロポーズなんて…いいんだ…。ただ…もっと一緒に虹を見ていたかったのに…莉央は虹が消えないうちからそそくさと行ってしまったから…面白くなかっただけだ。ずっと…一年以上も一緒に見てなかったのに…」

 「俺はマジで慌てたんです。普通にウチに帰ってからプロポーズじゃ全然普通すぎる!と思って。虹見ながらの予定だったのに~~~~!ってね」
 くすくすと莉央が苦笑してる。
 「色々考えて…やっぱ厳かな教会がいいかな…と。誰にも祝福はないですけど、俺達がよければ、分かってればいいかな、と。それで教会に問い合わせしたら教会からも開けてもいいですよ、と返事もらって!ご機嫌で店に行ったら綾世さんはイライラしてるし…」
 「………ごめん」

 「ああ、俺の事信じてないんだ~?と…」
 「悪かった!でも!だって!虹は莉央と一緒に!というのに意味があるのに!莉央がすぐにいなくなるから!」
 「そこはすみませんですけど。俺にだって虹は特別です、って言ったのに…全然綾世さん信用してくんない…」
 「………信用してないわけじゃないけど…莉央?どこ行くんだ?」
 車が莉央のマンションとは違う方向に走っている。
 「ホテル」
 「はい?」
 「だって、初夜ですもん」
 「……な、に…?」

 莉央が車をホテルにつけ、そして部屋に案内される。綾世の手にはチョコケーキの箱だ。
 目まぐるしく変わる状況に綾世の頭がついていかない。
 男二人でホテル、という所にも気づかない位に動揺したままホテルの部屋で二人になった。
 用意された部屋にはすでにディナーまで用意されている。
 「莉央…?」
 「特別な夜ですからね。びっくりした?」
 「…びっくりしすぎてよく分からない…」
 「いいのいいの。綾世さんのケーキも食べましょ」
 「……いいけど…部屋が…」
 広いし立派だ…。

 「だって今日バレンタインデーでどこも空いてなくて!たまたまここがキャンセル出たっていうので!電話かけまくりで大奮発しましたよ!でも初夜ですから!特別感でいいでしょ?」
 広い部屋にディナーに教会での誓いに指輪…。
 「莉央…」
 ただのバレンタインデーだけだったはずなのに…。
 今日も明日も何も変わらないと思っていたのに…。
 綾世はそれでもよかったのに…。

 「ナイフでケーキ入刀しますか?」
 おどけたように言う莉央に泣きながら笑ってしまった。
 「今までだって共同作業はいっぱいありますけどね。これからも俺の事捨てないで下さいね」
 「…それは僕の台詞だ…」
 「え~…絶対違う~…。今日だってもし本当に俺が虹の事忘れてたら俺絶対綾世さんに捨てられてると思う…」
 「ないよ…」

 もう本当は虹なんて関係ないんだ。
 「だって…莉央は虹の事忘れるなんて…ないだろう?」
 「勿論、ありませんよ」
 「……莉央…」
 綾世は自分から腕を伸ばし莉央に抱きついた。

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