気持ちがフワフワしたままご飯も終わって後片付けも済ませる。
急ぐのもまるで早く!と世那に急かしているように思われてしまうんじゃないかと思ってなるべくゆっくりと心がける。
それでもとてもじゃないけど落ち着いてはいられないんだけど。
全部終わって小さく深呼吸してリビングのソファに座っていた世那の隣にちょこんと座る。
「終わり?」
「…うん」
どきどきと心臓の音が世那にも聞こえてしまうんじゃないかと思う位にうるさい。
「………俺の部屋行く?それともまだ?」
なんで聞いてくるのぉ?
聞かないで連れて行ってくれればいいのに!
行く、って言ったら早くしてって言ってるみたいだし、行かないって言ったらヤダって言ってるみたいじゃないか!
恨めしそうに世那を見るとぷっと世那が笑う。
「………意地悪っ」
「だってお前に可愛く、して?って言って欲しいもんよ」
「い、言わないっ」
「なんで~?なんだ…譲はしたくないんだ…」
「そ、そんな事言ってないっ!………世那…意地悪」
世那が笑いながら譲を抱きしめてくれたのに世那の胸に縋った。
こうしてもらえると安心する。
すっぽりと世那の腕の中に守られていつまでもぬくぬくとしていたいんだ。
すると世那が身体を揺らして笑い出した。
「?」
どうしたんだろうと思って世那を見上げる。
「ああ、わり…ステージで転んだの思い出したらおかしくて…漫画のようにこけたよな」
ぷっと世那が声にだして笑い始める。
「やべ…おさまんねぇ…」
「もうっ!!!」
なんで今更笑うかな!?
そして世那が笑いながらぎゅむっと譲の鼻を摘んだ。
「んんっ!」
「小さい頃からこけまくり?」
そう、と譲がこくっと頷くと世那はますます笑う。
「だからお前の鼻こんなに可愛いのか?」
「なに?潰れてるっていいたいの!?自分が鼻高いからって!」
むっと譲が唇を尖らせると世那が鼻を離して軽くキスする。
「可愛いからいいだろ」
「…………」
とてもいいとは思えないんだけど?
「お前はどこもかしこも可愛い…」
「………それって絶対誉めてない」
むぅっとしたまま譲が言えばもう世那は笑いが止まらないらしい。譲を離してお腹を押さえてヒーヒー笑っている。
「世那がこんなに笑う人だなんて思わなかったっ!」
「お前が笑かすからだろ」
「あんなに強面だったのにっ」
「何もないのにへらへら笑ってたらおかしいだろうが」
そりゃそうだけど。
怖いくらいに、誰にでも睨んでるのか、と思える位に眼光が鋭いって思ってたのに今は見る影もない。
ううん…勝手に譲がそう思ってただけかもしれない。
怖い人なんだという先入観があったから。
「世那が笑ってくれるならそれでいいけど…」
「笑える位ならな。怪我とかしたらしゃれになんないだろう。気をつけろよ?俺いる時は庇ってやれるけど。俺いなかったら家でだってもう階段から転げてるだろう?」
「…………うん」
ぐりと世那が譲の頭を撫でてくれるのに小さく頷く。
もう何度も何度も世那には助けてもらっている。
「……世那…嫌になんない…?」
「何が?」
「だって…今日だってこけたの…恥ずかしいでしょ…?いっぱい色々迷惑ばっかかけてるし…」
「全然?俺いる時はいいけど、いない時とか大丈夫かなって気になって仕方ねぇよ。傍で俺の目の見える範囲内にいないと落ち着かねぇな…」
それって嬉しいような嬉しくないような…。
複雑になっていると世那がまた譲を抱きしめた。
「傍にいろ」
「……………ん」
やっぱり嬉しい、だ。
「世那…」
譲が世那の首に腕を回すとそのまま世那が子供を抱っこするように譲を持ち上げた。
「わっ!」
「ちゃんと掴まっとけ」
なんでこんな軽がると持てるんだろう?
身体の作りからしてきっと譲とは違うんだ。
ぎゅうっと世那の首に力を入れて抱きつく。
「世那……好き…」
「ああ…俺も譲が好きだ」
譲の耳元に世那が優しい声で囁いてくれると心がぎゅっと苦しくなる。
自分に好きな人が出来て、そしてこんな事言ってもらえる日が来るなんて思ってもなかった。
相手は女の子じゃなかったけど、でも譲だって世那が好きなんだからそんな事はどうでもいい事だ。
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学