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僕の好きな人 74

 慣れるまではと平日をバイト多めに入れていた世那が日曜日はバイトが休みだというので譲は喜んだ。
 「譲、バイト先教える?」
 「…うん」
 どんな所でしてるのか。
 「店に入るのはなしな。外から覗くだけ。いくらか慣れたけど…まだ来るなよ?」
 「……多分一人じゃ行けない…」
 一人でお洒落なカフェに入るなんて勇気は譲にあるはずがない。

 「ちょっと世那と出かけてくる」
 玄関で世那と靴を履きながら声をかけるとお母さんがリビングから出てきた。
 「どれ位?お母さん達あと買い物行ってくるけど」
 世那と顔を合わせた。
 「ちょっと駅まで位だからそんなには…」
 「世那くん、譲懐いちゃってうるさくない?」
 「いえ、全然」
 世那がくすっと笑ったのに安心して譲の顔もふにゃっと崩れる。

 「世那くん、よろしくね」
 「はい」
 お母さんが世那に頼んでいるのに世那が真顔で答えているのがなんか照れくさい。
 「……別に僕そんなちっさい子でもないのに…。なんか幼稚園か小学生みたい。世那と1コしか違わないのに…」
 照れ隠しにむぅっとすればお母さんも世那も声を出して笑い出した。
 「1歳違いになんか絶対!見えない~」
 そりゃそうでしょうけど!

 「もういい!世那いこ!」
 ぐいと世那の腕を引っ張って玄関を出た。
 世那はまだ笑っている。
 「…笑いすぎっ」
 でも世那がこんな風に笑っているのを見るのがすごく久しぶりな気がする。
 バイトに行っちゃうとやっぱりどうしたって世那といる時間が減ってしまう。今までがずっと親いないほうが多いくらいだったので、世那にべったりくっつきすぎだったんだ。

 ……世那はやっぱり譲がウザくなったのかな…?
 またマイナスな考えに行きそうになって譲はふるふると頭を振った。
 「譲?どうした?」
 「ううん!なんでもない」
 嬉しいな、と世那の服の上着の端をちょんと掴んだ。ホントは手を繋ぎたいとこだけど…… 
 「帰ったらな?…寂しかったんだろ?」 
 「………ん」
 世那がくすっと笑って譲の肩を組んだ。

 「手はさすがにつなげねぇけどな。家の近くだし」
 世那が今日は近い!
 近いと嬉しい。
 あんなに不安だった気持ちがどこかに飛んで消えていってしまう!
 世那がちゃんと譲を見てくれているのが分かればあんなになんでマイナスに思ってしまっていたのか、と自分でも馬鹿らしくなってきてしまいそうだ。
 世那の言うとおりにきっと寂しかっただけなんだ。

 駅の裏の方に連れて行かれる。と、譲はいつも駅は表からしか利用した事なく裏は初めてできょろきょろしてしまう。
 裏といっても寂れた感じではなくて明るくてお洒落な感じ。表は人も多くて忙しそうな感じだけど駅裏はゆったりしているような感じかも。
 「譲。あそこ」
 世那が足を止めて指差した。
 世那が指差した店までちょっとまだ距離があったけど、遠くからでも分かる。
 オープンカフェでテラス席まであってちょっと外国みたいな雰囲気ですごくお洒落だ!

 …絶対譲は一人では来るの無理!合わないっ!
 反対に世那にはすごく合いそうだ。
 店員さんが出てきた。黒の腰からの長いエプロン…あんなの譲がしたらきっと引きずってしまう。
 「覚えたか?」
 「…うん」
 世那を見上げてあの店員さんの姿を世那に当て嵌める。

 …絶対かっこいい!それこそ学園祭の時の仮装と変わらないじゃないか!
 …それはちょっと見てみたい。けど、一人では入れない。今度外から覗いてみようかな。西校の下校時間からずらして、ちょっと遠回りだけと駅の中を通らなければ大丈夫かも…。
 「世那、駅の中通らないで行ける道ある?」
 「そりゃあるけど。……お前、一人で普通の平日は来るなよ?土日ならまだいいけど…。いいな?平日はダメ!危ねぇ。分かったな?」
 「う…ん…」

 確かに西高の人ともし会っちゃったら怖いけど…そこまで断言しなくても…。
 でも世那が働いてるとこはやっぱみてみたいな…。
 「分かったなら帰るぞ。もう親達でかけただろ。べたべたする?」
 「…………ん」
 そんな事聞かれちゃったら頷くに決まってる!だってずっと世那が足りなかったんだもん!
 「じゃあさっさと帰ろう。ああ、裏道教えてやる。ちょっと遠回りだけど真っ直ぐだから覚えやすいはず」
 「…うん」
 来ちゃだめとは言うけれどちゃんと道を教えてくれるらしいのに譲は頷いた。ちゃんと覚えといて、その内絶対来ようっと!

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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