「う、わっ!」
「わっ!」
その人がくるりと振り返って小さく声をあげたのに譲も驚いた。
驚いたけど……あれ…?
「あれ?メガネちゃんか。何?世那の事見に来た?」
なんか見た事あると思ったら、世那の友達って人だ!
………ええと?名前なんだっけ?
「世那の…お友達の…」
「そ、大原 啓吾デス。よろしく」
「あ、と…て、天間 譲です。学校ではまだ高橋だけど」
天間で名乗ったのは初めてだ!
そうだ、もう天間だったんだ。学校でももう世那と兄弟になったって皆に知れちゃってるし天間にしてもいいかな…
「あ、メガネちゃん!」
ぐい、と大原って人が譲の頭を手で押し付けてきたので植え込みで二人でさらに小さくなる。
大原さんがくいくいと親指で指した方を影からそっと覗くと世那だった!
やっぱかっこいいっ!大人っぽい!高校生には絶対見えない!
お待たせ致しました、という世那の声が聞こえてくるのに悶えそうになる。
世那に来ていいって言われたらやっぱ来たいかも!
世那に接客とかって!
でもずっとついててくれるわけじゃないんだよね…。
すぐに世那がお店の中に引っ込んでいってしまったのにがっくりしてしまう。
「ええと…大原さんは何してるの?」
「え?あ…いや…その…」
あはははは~と笑って誤魔化そうとしたのを譲はじっと見上げた。
この人も背が高い。
そして譲を見てはぁ、と小さく溜息を吐き出した。
「なぁ、世那ってさ、なんでバイトはじめたんだ?」
「え?……なんか欲しい物がある、とか言ってたけど…」
「そっか……あっ!」
また大原さんが譲の頭を押さえた。
二人で小さくなって見てると今度は世那じゃなくて女の人だった。
茶色の髪が長くてすらりとして綺麗な人だ。……いいけど誰?
あ!大原さんはあの人を見に来たの?
じっと大原さんを見ると譲の目に気付いてかっと顔を赤くした。
「……あの人中学ん時の先輩なんだけど」
誤魔化せないと思ったのか、女の人が店に入った後に大原さんが説明してくれる。
…先輩?
そういえば世那も先輩に誘われてたって言ってた…。
「世那…誘ったの…ってあの人?」
「やっぱ純香さんから…?」
大原さんが呟いた。やっぱ…?
「世那…純香さんと付き合ってたんだよね」
「え?」
付き合ってた…?
どくんどくんと心臓が鳴ってきた。
「あ、前ね。俺等が中2位の時から高1なった位までかなぁ…けっこう長かった。あ!でも今はちげぇよ?……俺はその前から実はずっと純香さん好きだったりすんだけど…」
「え?そんなに!?」
「そう。そんなに!別な子とかとも付き合ったりしたけど、やっぱダメでさ…」
なんで植え込みの影で世那のお友達とこんな話になっているんだろう???
「メガネちゃん……譲…でいい?天間ってのも変な感じだし」
「…うん…」
「世那を見に来たんでしょ?世那とはどうなの?」
「ど、ど、ど、ど…どう!?……って!?」
「アレ?世那とはまだ?」
「まだ!?」
あわわわと譲は慌てる。
ど、ど、どう答えたらいいのぉ?
「こんなとこまで世那見に来る位だろ?ただの義理の兄弟は普通来なくね?」
「う……」
それは確かに…。
実際、大原さんもあの先輩をわざわざ見に来てる位なのだろうから。
「あ…」
大原さんと譲が声を合わせた。
世那とその先輩っていう人が店の中で仲よさそうに話してたのが見えたのだ。
「譲……帰る?」
「…………うん」
二人でこそりとその場を離れて一緒に歩いていく。
……なんか世那と先輩と言った二人が並んでいるのがすごくお似合いな感じだった。
自分が世那の横にいるのが似合ってないのはよく分かっていたけど…。
…………かなり凹んでくる。
付き合ってたって…。今は違う…?でもバイトに誘ってくる位だから…。
くるくると嫌な考えが回る。
「おい!譲?どこ行く?天間の家そっちじゃないだろ?」
「え?あ!」
ぼうっとしてたら曲がるトコ忘れてた!危ない!
「お前危ねぇなぁ~…そりゃ世那が守るようにしてるわけだわ…」
大原さんに笑われた。
うん…世那のお友達だけあって怖くない。それに笑った顔とかも優しそう。
「……嫌いで別れたんじゃねぇんだよな…」
ぽつりと大原さんが呟いて、譲は何故か成り行きで隣を歩いている世那の友達を見上げた。
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