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僕の好きな人 79

 ちょっとの事でも嬉しくて、ちょっとの事でも凹んで。
 嬉しいドキドキに怖いドキドキとなんかいろいろと心の中が忙しい。
 学校ではもう全然皆普通だし、学園祭の時が皆おかしなテンションだったからか世那とべったりしてたのにもかかわらず、今は譲も世那もさすがに学園祭の時みたいに腕にぶら下がるような事もしてなかったので誰にも何も言われなくてちょっとほっとしてしまう。

 義理の兄弟と知られたから行きと帰りが一緒でも別に変な風にも見られないし、よかった、と思ってしまう。
 家に帰ってからホントはべたべたしたいけど、世那はバイトだから仕方ない。
 ずっと勉強ばかりもしてられないし、譲は時間を持て余してしまうので、ご飯の用意をする。
 母親と二人の時はそれが普通だったから別になんとも思った事はないし、喜んでもらえるのが嬉しいから別にいいんだ。

 何かしてた方が余計な事を考えなくていいし。
 今日も世那はバイトで譲は冷蔵庫を眺めていた。
 「あれ?」
 珍しく譲の携帯が鳴ったのにテーブルに置きっぱなしになっていたので慌てて冷蔵庫を閉めて携帯を取った。
 …知らない番号…?
 「もしもし…?」

 『…天間 譲くん?』
 「え…?あ、はい…」
 『私は紺野 美恵。名前で言っても分からないと思うけれど、世那の母親です』
 世那のお母さん?
 ……どうして世那のお母さんが譲に電話…?
 「あの…世那は今…いないです…けど…?」
 『分かってるわ。だから電話したのですもの。ちょっと駅の方まで出てこられる?』

 「え……?」
 なんで…?譲が?
 『ちょっとお話したい事があるんだけど?………世那があなたの事を好きって本当?』
 「ええっ!?」
 『あら?嘘?』
 「あ…、え……?」
 なんで!?どうして!?

 『それについてお話したいの。出てきてもらえる?無理なら迎えに行ってもいいけど、今更私は天間の近くに行きたくないんだけれど?』
 有無を言わせないような世那のお母さんの言い方に譲はあ、じゃあ今行きます…と言うと駅近くのコーヒーショップチェーンに来てちょうだい、と言われて電話を切られた。

 本当に…?
 何?
 どういう事?
 何言われるの…?

 かなり緊張しながらそれでも譲はコーヒーショップに向かった。
 世那のお母さんだなんて…。世那が好きって…なんで?
 何がどうなっているのか全然分からない。
 道の途中に西高の生徒はちらほらといたけれど、集団でもないし、譲も私服に着替えていたので平気そうだ。

 それよりも世那のお母さん…がどうして…。
 電話での話し方もきびきびして怖そう。
 トロくさい譲はそういう人がちょっと苦手だ。
 ドジしたら容赦なく侮蔑の視線を向けられそうな気がする。
 まだ会ったわけでもないけど…。

 譲はドキドキしながら指定されたコーヒーショップのドアを恐る恐る開けた。
 チェーン店なので世那の店よりかは譲も入りやすい。
 キリッとしたスーツを身につけ、すらりとした女の人が近づいてきた。
 「譲くんね?」
 「あ。……はい」
 目が!世那に似てる!

 「何がいいかしら?」
 カウンターでメニューを聞かれたのに譲はぶんぶんと首を横に振った。
 「あの、いいです…本当に…」
 「……そう?」
 緊張でとてもじゃないけど何も手につくはずないし、かえってドジして零しちゃったりしたらとんでもない事になりそうだ。

 背中にも冷や汗がじとりと滲んでくる。
 世那のお母さんは先に来ていたらしく席に案内されて向かい合わせにちょこんと譲は座った。
 「はじめまして。…学校の保健の…私の妹というのは聞いていた?」
 「はい…」
 こくんと小さく頷いた。
 「携帯の番号はごめんなさい。教えて貰ったの」
 全然悪びれた風でもなくさくっと世那のお母さんが言う。

 「あ、はい…」
 そんな事より何を言われるのか…。
 こうして目の前にすればやっぱり世那と似ている。きりっとしてる目とかはそっくりだ。
 お父さんのほうが優しそうに見えたのは目が違うからなのかな…?
 世那のお母さんはちょっと怖そう…。でも世那にもはじめはすごく怖く思ってたのに違ったから違うのだろうか…?

 「世那は来年大学受験なの。それなりに勉強は出来るし、いいところにも入れると思う」
 譲はこくりと頷いた。…譲と違ってそうだと思う。
 ……本題に入るのだろうか…?
 ますます緊張で心臓が嫌な音をたてていた。
 …怖い。
 冷や汗が背中をつっと流れた。

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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