とりあえず目先の事だ。
譲は色々あちこち余計な事考えると何も手につかなくなる。
だからまずがんばるのは勉強。
今までだって一応真面目にはやっていた。でも世那が先に入るだろう大学を追っていける位になるように頑張る。
それとなんでも世那を頼りにしすぎない事だ。
生徒会の集まりのある日にも世那は待ってくれていた。
バイトにぶつかっている日でも世那は遅れてもいいから、と譲に合わせてくれていたけれどそうじゃない。
「世那。今日バイトでしょ?僕、今日生徒会の集まりあるんだ。ちょっと今日は時間遅くなるから先に帰ってていいよ」
朝、登校で駅に向かっている途中、歩きながら譲が言った。
「ああ?いいよ。待ってる」
「大丈夫!時間遅くなるから。さすがにいつもの時間の集団になっている時は怖いけど…ばらけていれば大丈夫。…それに…僕…これから先もずっと世那についててもらえないとダメなの?世那が大学行っちゃたら…僕どうすればいいの…?」
世那が苛立たしそうに頭をかいた。
「……くそ…。…分かったよ。……今日は遅くなるんだな?」
「うん」
本当はそこまで時間はかからないはずだけど、図書館で時間を潰したっていい。
とにかく世那の予定の邪魔にならないようにしないといけない。
「何かあれば電話。バイトで駅裏にいるんだからすぐ行ける」
「………うん」
世那はそこでも譲に安心を与えてくれるんだ。
だから譲はそれに甘えて全部ぬくぬくと浸っていたくなるんだ。
でもそれじゃダメだ。
自分に自信が持てるように!
変わるんだ。
「おや?今日は天間いないの?」
生徒会を終えて廊下に出ると会長が不思議そうにして譲に聞いて来た。
「はい。待ってなくていいって…言った」
まさか会長には世那がバイトしてて、とは言えない。
一応学校ではバイトは禁止だ。
「聞いてるよ?天間バイトしてんでしょ?」
こそりと会長が譲の耳元に顔を近づけて囁いた。
「え!?…な、なんの事…?」
譲がわたわたと慌ててしまうとくすくすと会長が笑った。
「しらばっくれなくていいよ。別に言いふらすつもりもないし」
…それならいいけど…。
「いいけどあそこ、純香さんいたよな?」
「え!?会長も知ってるの!?」
あわわ、と譲は口を塞いだ。
「おや?天間と…っていうのも高橋くん知ってるんだ?」
「いえっ!あの…」
「慌ててるって事は天間から聞いたんじゃないんだね?」
なんで分かっちゃうのぉ~?
ああ~…こういうあわわわしちゃうとこも直したい!
そしてそんな事思いながら動揺してるとなんでもない所でこけそうになってしまう。
「っと!」
会長が腕を引っ張ってくれて助かった。
世那の会長も反射神経がいい。なんで譲は……今はそこは考えないようにしよう。
「高橋くん平気なんだ?」
「…………平気じゃないです…。あ!違う!だめ!会長!世那に黙ってて!」
「…元々僕は天間とあまり喋らないけど?」
「え…?そう…?でも…なんで会長も知って…」
「純香さんも塾一緒だった。だから知っている」
…そうなんだ。
「僕……本当はまだ世那にお店来ちゃだめって…」
「でも覗きに行った?」
くすと笑われたけど頷く。
「純香さん綺麗な人だった…?」
「……うん」
また軽く凹んできた。
でも凹んでる暇はないんだ。
「……高橋くんはホント可愛いね。天間やめたら?天間は今頃純香さんと仲良くしてるよ?きっと」
なんでそんな事言うの!?
世那のお母さんに言われた事でも凹んで、先輩という人の存在にも凹んで。
さらに会長にまでそんな事言われて…。
むぅっと譲が口をへの字にすればますます会長が笑う。
「しかし、天間いなくて大丈夫?時間はずれているだろうけど…」
「大丈夫です」
世那にはちゃんと電車乗る前と家着いたらメール入れろって言われていた。
ちゃんと一人で。
だって幼稚園でも小学生でもないんだから!
……でも駅に西高生が多かったら駅裏の方に走っていこう。
だって怖いのは怖い。
そんな事思っちゃうんだからきっと譲は甘いんだけど。
だってきっと絡まれたりしても助けてくれる人なんて誰もいないと思う。
でもまず自分から変わろうとしなきゃ何も変わらないんだ。
このままずっと世那に迷惑かけるわけにいかないんだから!
部活に出る会長と分かれ、譲は駅に向かった。
いつも隣には世那がいたのにいない。
それだけでなんでこんなに心細く思えてくるんだろう?
ダメダメ!
譲はぶんぶんと首を横に振った。
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