世那が携帯を取り出したのに譲が慌てた。
「世那!誰に?」
「母親に決まってる!何を余計な事…」
「ダメ!いいのっ!」
譲は世那を止めた。
「譲………何を言われた?」
「世那…僕の事…お母さんに…」
「ああ、言った。冴子がばらしやがったからな」
「僕は…言えなかった……世那の事は好き!好きなんだけど…お母さんにデメリットを抱え込んで…って…将来を…って言われて…僕、顔を上げられなかった…」
「はぁ?なんだそれ!?メリットがあるから一緒にいるとかそういうんじゃないだろう!譲が譲だから一緒にいるんだ。譲じゃなかったら好きでもなんでもない」
譲が譲だから…?
「……堂々と顔上げられないなら…って…僕…自分で自分に自信なんかないし…」
「俺だって自信なんかあるか!譲にちょっと避けられたくらいで凹んでるのに!」
「……………避けてないもん」
そこは否定しておく。
「避けたんじゃないもん。自分で頑張ろうと思っただけ……」
「…ああ。話聞けば分かるけど。何も言われないで急にだったから、俺はそう思ったんだ」
「………ごめんなさい」
世那が譲に軽くキスしてくれた。
「素直なとこも譲のいいところだ。人のいう事に耳傾けて、ちゃんと聞ける所」
譲にとったらなんでもない普通の所が世那にかかれば譲のいいところになるらしい。それがちょっとくすぐったい。
「……僕、世那が今日…あの人といたコーヒーショップ…もう絶対行かない!世那のお母さんと会ったのも…あそこ…世那が嘘ついて…僕の事ほっぽって行ってたのもあそこなんだもん…」
「……それは…マジで悪かった…俺も切羽詰ってたんだ…休みなのに…。今日も譲にいらないようにされるのが怖かったんだ…」
またあの時の気持ちを思い出して譲は心が苦しくなる。
「……なぁ、譲?俺が先輩と一緒いるの嫌だった?」
「嫌に決まってるでしょ!……世那のバイトのお店でも…仲よさそうに話してたっ!」
「………だから俺のバイトのとこ来ない?」
「そうだよっ!……やだもん…見たくない…もん…」
すると世那がにやにやと顔を崩している。
「なんだ…そっか……」
「なんで嬉しそうなのっ!?」
「だって譲がヤキモチ焼いてんだろ?」
むっと口と尖らせると世那がキスした。
「それは嬉しい。けど、本当になんでもない。…心配しなくていいぞ?今は譲にしか全部向いてないから。そんな事より俺の母親の事だ。あの人のいう事なんか聞く事ねぇよ。自分の考えが一番正しいと思ってる人だから。今度もし呼び出されたりなんかしたら言え。譲が、じゃないんだ。俺が譲じゃないとダメなんだから」
「…………世那、が…?…僕も…世那じゃなきゃ…ヤだよ…?キスも抱っこも世那がいい…」
「ああ。譲」
キスを交わして世那の腕を確かめる。
「僕…頑張ろうって…ずっと…。…今日は世那休みで世那でいっぱいにしたか…たのに…世那…いなくて…さびしか、った…キスもしたか、ったのに…」
「えっちも?…したかった?」
世那の腕の中で小さく頷けば世那がぎゅっと抱きしめてくれる。
「俺も…譲抱きたかった…」
「…ん……。僕…ずっと…自分の事…キライだった…。ドジでマヌケで…眼鏡だってダサダサで…背だって高くないし、…自分で分かってるけど…」
「そのままでいい…俺がついててやる」
「…小学校でも中学校でも…ちょっと馬鹿にされてたし…そんなのヤだった…」
「ああ?…馬鹿にされてた?……そうなのか?」
「ん……特定の人にちょっとだけだけ、だったから…別に大丈夫だったけど…からかわれたり…してた…」
こんな過去に苛められてたみたい、なんて事世那に言うのも本当は嫌だけど…。
「………それ、さ…」
世那がじっと譲を見ていた。
「まぁ…いいや。眼鏡はそれでいいんだ。……お前がコンタクトできないヤツでよかったよ」
「?」
「鈍いしな」
「鈍い!?」
「鈍い!…でもそこも俺にとっては譲のいいとこだ!」
「はぁ?どうして?」
「俺が気が気じゃなくなるから。まぁ、今のとこ学校では俺の存在あるだろうから安心できるけど」
「?」
「くそ宮下は気をつけなきゃないけどな…あわよくば、ってお前を揺さぶってるようだし…」
「会長?」
「だろ。余計な事までわざわざ言いやがる。…お前も最初は宮下にばっかり懐いて…俺の顔見ればいつでも真っ青になって震えて泣きそうだったし」
「……だって怖かったんだもん…苛められるかと…」
「今は?」
「……好き」
世那がくすっと笑ってキスしてくれた。
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