ゆっくりと千聖(ちさと)は目を開けた。
「…何時だ?」
宵っ張りの生活だったので朝は苦手だ…と思いながらのろのろと携帯を手にすればもう九時を過ぎていた。今日は色々手配しなければ…とぼうっとする頭のままどうにか半身を起こす。
朝シャワーをすればいくらか頭は起きるだろうか…?
そう思いながら顔を擦り頭をかく。
そしてぼうっとする頭を抱えて部屋を見渡せばやはり昨夜の印象がそのままだ。朝の光りが射す中でも部屋はどこかやつれたイメージがする。
部屋にはベッドとアンティークなボードのみでがらんとしている感じで、全体的にやはり埃っぽい。
千聖は携帯を手に不動産屋に電話をかけた。
「もしもし?長澤ですが…ええ、昨日の夜に無事着きました。それでいくつかお願いしたい事が…。…いいですか?まずは屋内清掃の業者の手配、ネット回線を即急に繋いで、庭の手入れをしてくれる所…早急に手配して欲しいのですが。即日で来てくれる所にです。……予算?そんなのいくらかかっても構わない!これじゃ住めないんだ!いいか?即日だ!今日中に来てくれる所にだ!」
わたわたと電話の向こうで不動産屋が慌てふためいている様子が手に取るように分かった。
「今までただ管理というだけで金払っていたんだ。それ位の手配はできるだろう?手配を終えたら携帯に連絡して」
ぶちっと携帯を切った。
田舎でそういう業者がどうの…と言い訳していたが、ここはそうでもそういう業者を呼べばいいだけだ!
無能そうな不動産屋にイラつく。なんでも田舎だから、なんて言い訳で通用するものじゃないだろう!
連絡を待つ間に昨日は疲れて見られなかった部屋の残りを見ようか、とベッドから起き出し、寝ていた部屋を出た。
多分ここは祖母が使っていた部屋だろう。ベッドは悪くなっていないようだし、物もいいのでそのまま使おうか…なんでも残っている物はいい物ばかりらしいのにはそうだろうな、と頷ける。
チェストなんかもアンティークの物で味わいがあっていい物だ。
「……掃除すればそんなに色々と必要ないかも…」
必要なものは近代的なものか?テレビとかパソコン用のデスクとか…。
寝ていた隣の部屋を見てみると何もないがらんとした広い部屋で、ここにパソコンを並べようと早くも配置を考え始める。ベッドが隣の部屋…大きいソファも置いたほうがよさそうだ、とも思って苦笑する。ベッドまで到達できない時用に、だ。
とりあえず寝る部屋と仕事部屋が決まれば他の部屋は後回しだ。
本当に凝った造りで、お城のように家の中央に広い階段があるがそれを降り、階下に向かう。水周りは一階にあるはずだ、と思いながら、だ。
通いの家政婦も探さないと…不動産屋に要求する項目を増やし、一階の部屋を全部見ていく。
リビングは…埃まみれは仕方ないにしてもさらに残念なのは大きい窓ガラスから見える庭だ。
「…やはり…ホラーハウスだ…」
そうだ、ここから綺麗な庭が見えたんだ。まるで外国のような風景だったのに、今は草が生い茂り、蔦があちこちに伸びて飛び出し、朝でも鬱蒼とした庭は寝起きの爽やかさとは程遠い。…昔のような外国の城の庭に戻るのだろうか…?一抹の不安は過ぎるが、自分で出来る筈はないので、業者に頼めばいい、とリビングを後にする。
そしてキッチンと風呂場。
祖母が亡くなった時に一応ハウスクリーニングはかけたらしく、しかも物自体は悪くないのでどれも使えそうだ。ただし!10年分以上の埃を全部とってからだ。
携帯が鳴ったので、すぐに出る。
「もしもし!…ハウスクリーニングは…すぐ来る?ああ、助かる。ネットは手続きぃ?ああ…じゃあ後で自分で電気屋に行く。欲しいものもあるしな…。造園は?…ああ、電話待ち?分かった。あ!それともう一つ追加だ。家政婦に来てくれるような人を探してくれ。何処かの所属でもいいし、近所のおばちゃんでもいい。ただ若い女はだめだ。よろしく」
ハウスクリーニング屋は一時間ほどで来るらしいので一番の問題の埃はどうにかなるか…。とにかく寝室と隣の部屋と水周りとリビングを先にしてもらえれば文句はないな…。
「…っと!」
あの入り口の茨はどうにかにないと!造園業者は待っていられなさそうだと庭に出てみる。枝きり鋏なんてあるだろうか…?と思いつつ建物の周りをうろつけば倉庫らしき建物があった。
入られるのか?恐る恐るドアを引けば鍵はかかっておらず軋んだ音をたて開いた。その途端、中はとんでもないくらいに埃っぽく白い煙がもうもうと立ち込めた。
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