はのんのBL部屋

　埃に咳き込みながら見つけた枝きり鋏を手に危なさそうな茨を切っていく。
　なんで自分がこんな事…と思いながらも仕方ない。とにかく業者が通る事が出来るようになればそれでいい。
　「いって…」
　あちこち棘に襲われながらもどうにか茨が頭に刺さるような事にならない位にした頃ワゴン車が門扉の外の駐車場に停まった。
　
　とにかく千聖もまだこの家の事を何も把握出来ていないのだ。
　不動産屋は家が広い事もちゃんと告げていたのか、四人ほどやってきたのに安心した。一人だったらとてもじゃないが一部屋だって終わらないだろう。

　中に案内して手始めにやって欲しい部屋を告げ、あとはプロに任せる事にする。…それはいいのだが、自分自身も埃っぽいし鼻の中まで真っ黒のような気がする。早く風呂に入りたいところだが、まだ使えない。いくらか着替は車に積んできたので今日の夜はきっと風呂場も綺麗にしてもらえるので自分自身も綺麗になれるはず、と少々辟易しながらも我慢する事にした。

　クー…っと腹が鳴ってそういえば昨夜から何も食べていなかった…と千聖は自分の腹を押さえた。
　…この辺りにコンビニってあるのだろうか…？
　何しろここの近辺に何があるのか、どんな店があるのかも全然分からないのだ。だいたいにして隣の家までの距離が遠い。東京じゃ考えられない事だが…本当に昨日の夜通って来た道でも電気のついていた店なんか一つもなかったのだ。

　…本当に生活していけるのだろうか…？
　不夜城東京で遊んできた千聖にしたら夜が暗いなんて初めて知った、位の勢いだ。
　「すみません…ちょっとお聞きしたいのですが…」
　ハウスクリーニングの業者の一人を捕まえてコンビニはないかとか電気屋は、とか少し近辺の情報を聞き出す。

　「ありがとう。じゃあ僕は少し買い物に行ってきますので…。クリーニングはお願いします。終わってもらえないと何も出来ない…」
　プレッシャーをかけながらにっこりと笑ってお願いしておく。
　「は、はい！がんばります！」
　「よろしくね」
　自分の顔が武器なのは分かっている。有効に使ってやらなければ損するだけだ。

　聞き出した情報通りに車を走らせれば少し大きい開けた場所に差し掛かった。どうやら千聖が通ってきた道とは反対方向に店が立ち並ぶ区域があったらしい。近所には田舎道と家しかないのかと少々不安だったが、家電量販店の看板もあったのにほっと安心してしまった。コンビニでサンドウィッチとコーヒーを買い、車の中で流し込むとまずは、と千聖は電気屋に向かった。

　何と言っても千聖はネットがなければ仕事にならないのだ。
　さすがにネット回線を今日中にというのに無理はあると思うがなるべくごねておく。ついでに冷蔵庫やテレビや電子レンジなども買い込みネットも早急に繋げないなら返品するぞと脅しておく。…いや、脅したのではなくにっこりと笑ってお願いしただけだ。
　その甲斐あってかまだ支払い中の間にも連絡が入ったりと事は順調に進んでいる。いい感じだ、と新しい生活を楽しむ余裕も出てきた。

　…あとは家政婦と造園業者か。
　どちらも今すぐ必要というわけではないが、造園は見た目にもホラーなあの庭は早めにどうにかして欲しいとは思う。朝のリビングで見た光景はかなり愕然とする廃れぶりだ。気持ちよい朝もあれでは気が滅入ってくる。

…とはいっても千聖は朝日を浴びながら庭を堪能…なんて事はしないだろうな、とくっと笑った。月の光の中で散歩ならあるかもしれないが…とてもじゃないが今は庭に出るのは危険だ。ふと自分の手に視線を向ける。枝きりの際に茨にあちこち攻撃され手が傷だらけになっていた。顔もところどころひりひりするところもあるので何箇所かやられたらしい。

　…やはり早急に来てもらった方がいいに決まっている。
　買い物を済ませ車に戻るとまた不動産屋から電話だ。
　「もしもし。……造園業者は…夕方に連絡…？まぁ仕方ない。家政婦は……ああ、一度会ってみたい。どちらも僕の携帯に連絡を入れるように…ああ、頼んだ」

　すぐに家政婦候補のおばちゃんから連絡が入って、不動産屋の仕事が早いのに満足する。造園業者は仕事に出ているので連絡は夕方らしいが。まぁ、次々と決まっていく物事に上機嫌な千聖はいいだろう、と満足そうな笑みを浮かべてコンビニで弁当を買って帰宅した。

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続きに拍手お返事です～^^

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