はのんのBL部屋

　千聖は眠っていたのだが、パチンパチンという音に起こされた。何の音だ？とはっきりと覚醒しない頭で考え、朝から来ると言っていた小笠原　彰吾の言葉を思い出した。

　…もしかしてもう仕事してるのか…？
　どうにも千聖は朝が弱いのでぼうっとした頭を抱えながらのろのろと裸体のままベッドを降り、窓から外を眺めれば小笠原　彰吾と名乗った男ともう一人が朝早くからやってきて脚立を用意して家屋までの通り道の枝などを切り始めていたらしい。
　仕事が早くて有言実行なヤツは好きだ。

　くわっと大きな欠伸を漏らしながら千聖は少しの間窓から眺めた。
　鬱蒼としていた通路が見る間に開けていく。
　これでまた少し住みやすい環境になったとほっと安心した。家の中も大々的にリフォームかけなきゃだめか？と思ったが、ハウスクリーニングしてもらった部屋は思ったよりもずっと綺麗で、どうにか大丈夫そうだ。祖母がここを出る時にきちんとしていったおかげだろう。それに元々千聖は家に拘るわけでもないし寝られれば十分だ。
　もう一度大きな欠伸を漏らして持ってきた荷物の中から衣類を取り出し服を着込むと階下に降り外に出た。

　「おはようございます」
　「おはようございます…すみませんね…朝から無理してもらって」
　「いえ…。いいのですが…かなり好き放題にのびてますね…」
　小笠原　彰吾が脚立の上から苦笑した。
　「ずっと…放置だったからね…」
　ん？という顔をした小笠原　彰吾だがそれ以上口を開くこともなくまた仕事にもどる。

　…詮索しないとこもいいな。
　じっと仕事に精を出す彼を見た。
　肩の辺りも隆々として、頭にタオルかぶって地下足袋履いて…見るからに汗クサイ、泥臭い仕事だ。でも男くさい仕事はかっこいい。二の腕も筋肉が張っていいな、と見惚れてしまう。
　自分はどちらかといえば家に籠もりきりの仕事だし運動も得意でもなかったので、どうしてもなまっちろい体つきだ。まぁ細身でもしなやかに見えるらしい身体は抱かれる側としては何よりだが…。こいつみたいな身体だったら男は寄って来ないだろう。

　「……あの」
　「ん？」
　小笠原　彰吾が怪訝そうにして千聖を見た。
　「見張ってなくともちゃんとしますよ？」
　「え？…ああ…」
　くすっと千聖は笑ってしまった。
　「別に見張ってたんじゃない。仕事する男はかっこいいな、と思って見惚れていただけだ。…じゃあ、お願いします」

　見張ってる、なんて言うくらいじゃ、千聖がじっと見ているのが邪魔だという事だろう。千聖はそう言ってその場を離れ、家の中に戻った。
　パチンパチンという音が聞こえる中、家の中を眺めて歩いた。

　リビングも綺麗になった。ここに今日はテレビもくる。…ああ、ソファを買おうか。寝室は調度品もいくらか残っていたが、リビングには何もなかった。絨毯も買ってソファも買って…。今はまだ鬱蒼としている庭だが綺麗になったあかつきにはここでゆっくり庭を眺める…。絶対にいい。
　…都会の緑の少ない場所で育ったが、千聖は自然は嫌いではない。自然の織り成すコントラストはやはり美しいと思う。人工的に生み出すことの出来ない美しさだ。

　小笠原　彰吾。小笠原造園、と言ったので家業を継いでるのだろうか？まだ若い。年は同じ位だろうか？都会の洗練された男達とは違うがそれもまたいい。実直そうだ。…昨夜の夜の中でもちょっといいな、と思ったが日の光の中でもやはり好みだ、と思わずほくそ笑んでしまう。だがやはり千聖を見ても窺うところは微塵も見えずこれはだめだな、と千聖は肩を竦めた。興味もないのに男を対象に相手する事などないだろう。

　…それにここは田舎だ。田舎は偏見に満ちているだろうし自分のような性癖者には住みにくい場所だろうとも思う。都会でだったならば、隣人の事など何も気にする事などないのだが…。
　それも、自分はそんなに外に出るつもりもないし、どう見られようと自分を変えるつもりもないので別に構わないが、相手を探すのは苦労しそうだ。

　東京でだったらちょっと夜の街をぶらつけば声がかかったが…ここは夜は本当に真っ暗なのだ。
　店も開いてないし人も歩いていない。千聖には考えられない事だが慣れなくてはいけないのだ。生活には慣れても禁欲には果たして慣れられるのか…そこだけには一抹の不安がよぎるが…。仕方ないと諦めるしかない。

　だいたい、自分からそんな生活を放棄してここにやってきたんだ。
　自分はもう戻らない。戻る気もない。
　千聖は窓から働く男の姿をじっと眺めていた。

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続きに拍手コメお返事です^^

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