はのんのBL部屋

　段々と家の中が家らしくなってきた。寒々しい感じだったのが、物が入ってくると薄らいだ気がしてくる。それでも一人で住むのにこんなに広い家ではやはりどこか薄ら寒いような無機質な感じはするが、千聖は家の温かみなど求めていないのでべつに構わない。

　仕事道具のパソコンや生活必需品も無事届いてそれを片付ければもう生活の基盤は出来た。
　家政婦のおばちゃんも年配だし、あまり詮索もせず、口数も多くなくと文句なしだった。
　ここに着いた時はあまりの家と庭の荒れ具合と田舎具合に一体どうなるかと心配したが、ネットが繋がってしまえばもう安心で、他のすべての事も思ったよりスムーズに事が運んだと思う。

　そして今からやっと庭の打ち合わせにあの男がやってくる。
　千聖はちょっとばかりうきうきとした気分になっていた。ただ会うにしたって、自分に興味がなくたって、好みの男と向き合えるのはここに来てからの唯一の仄かな楽しみだ。なにしろ夜に遊ぶところもないのだから。
　料理などしないが、コーヒーは入れられる。パソコンに向かっている時は常時と言っていい位コーヒーはがぶ飲みだ。

　リビングの大きい窓からまだ鬱蒼としている庭を見た。業者が来るのに通路だけは通られるようにしてくれたが、まだ他の家の庭の剪定の仕事が詰まっていると後回しにされたが、まぁそこは仕方ない。通路の融通を利かせてくれただけでもいい。
　インターホンがなって携帯を取り出し時計を見れば約束の午後一時ぴったりだ。時間に正確な所もいい、と千聖はくすっと笑みを浮かべて玄関を開けた。

　「通路は大丈夫でしたか？応急でしたが」
　「助かりました。どうぞ」
　背の高い男だ。実直そうな、見るからに信頼を人に与えるような印象を与える。この間の仕事着ではなくきちんとスーツを着て現れたのにへぇ、と思わず千聖は目を瞠って凝視してしまう。さらにいい男度がアップだ。
　「お邪魔します」
　広い玄関で靴を脱いだ男、小笠原　彰吾をリビングに案内した。リビングも千聖が一番初めに見た廃れた感じはなくなって今はそれなりの立派な部屋に見える。大きいテレビにふかふかの絨毯、豪華なソファセット。

　くるりと部屋を見渡した小笠原　彰吾は仄かに感嘆の表情を浮かべ、そこに千聖も少しばかり満足する。本当は部屋の感じがいいだろう？と聞きたいくらいだがそこはまだこの男の事はよく分からないので我慢だ。
　だが、その男が小さくくっと眉を顰めた。
　視線の先を見ればやはり庭だ。
　それには千聖も苦笑してしまう。十年以上も放置していた結果だが、仕方ない。どうしたって今の状態では庭は鑑賞するような代物にはなっていないのだから。

　「……手の傷は治りましたか？」
　小笠原　彰吾は庭から視線を外し、千聖を見てそう気遣ってきた。細やかな気遣いだがそこに何も余計な感情は見えない。…少し位見えれば誘惑してやりたい位なのだが…。ストイックなスーツ姿もまた千聖には余計に魅力的に見えてしまうのにふっと男から視線を背けた。
　「もうなんともないよ。…どうぞ」
　男をソファに勧めるとスーツ姿で身持ちも硬そうに見える男は小さく頭を下げて大きな鞄を下ろし胸ポケットから名刺を取り出した。

　「小笠原　彰吾です」
　「長澤　千聖です。…すみません、まだ名刺作ってないです」
　「構いませんよ。色々とお忙しいでしょうからね」
　くすりと口端が緩むと柔らかな印象になった。
　「失礼します」
　そう断ってソファに腰かけた男の為に千聖はコーヒーをセットした。

　…困ったな。
　つい、千聖は男をチラ見してしまう。性格がどんなかは知らないが外見はかなり好みだ。いっそのことノーマルでも誘惑してやろうか…？などとつい考えてしまう。
　寝るのに性格などどうでもいい。身体が大きくてがっしりしてる硬い筋肉がついているのはこの間の仕事の時の格好で確認済みだ。裸体まで想像しそうになって欲求不満かと自分に突っ込む。
　
　…いや、確かにそうかもしれないが…。だが、どう見てもこの男は千聖に少しもそんな素振りは見せないのだから、それはそれで興味が湧いてくる。ノーマルな男でさえ少し位は千聖の見てくれに凝視するのが通常ではあるのに、この男はただの人、もしくはクライアントとしか千聖を認識していないらしい。
　くす、と千聖はコポコポと落ちるコーヒーを眺めながら笑みを浮べた。

　そうだ、この男を落とせばいいじゃないか。どうせこっちじゃ一晩の相手なんかも探せないだろう。ならば自分に夢中にさせてみればいいじゃないか。
　ゲームのような感覚に千聖は自分でわくわくしてしまった。

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続きに拍手コメお返事です～^^

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