「砂糖かミルクは?」
「いえ、ブラックで」
客用のコーヒーカップとソーサーは元のマンションから持ってきたものだ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「いいえ」
わざと男の顔を覗き込むようにしてにっこりと笑った。すると男は好印象と思ったのか千聖を見てまたさらに表情が柔らかくなった。けど相変わらず目には何も欲が見えない。
千聖は気にせずコーヒーを手に向いのソファに座った。今肉欲が見えなくてもそれはいい。それに見た感じ嫌なやつでもなさそうだ。
「さっそくなのですが…お庭をどの様にしたらよいでしょうか?西洋式庭園という事でよろしいでしょうか?」
「……まぁ、日本庭園ではないな」
「そうですね。西洋にもイギリス式、フランス式、イタリア式、スペイン式…と色々あるのですが…」
「ああ?…そんなに…?詳しくなから…俺は分からないな…」
男が鞄から分厚い本を何冊か取り出した。
「こちらがイギリス式でこちらがフランス式…」
ちら、と本を見るとあちこちの庭園の写真が色々を載っている。がそれを見ても千聖には何がどう違うのかよく分からない。
「うーん……ここは?元々…どんなだっけ…」
何しろ小学校の頃に一回来ただけだ。とにかく日本じゃないような感じだったとしか思い出せない。
「こちらは色々混ざっていると思います。どこの国式、というよりは西洋式と言った方がよいかと」
「俺は別にこだわりがあるわけじゃないし…」
「…私にお任せいただけますか?」
男が千聖を窺う様にして聞いて来た。
「ああ、任せる。ここで庭を見てゆっくりと鑑賞、堪能出来る庭がいい。とは言っても本当に俺は素人で植物についても庭に関しても何も全然分からないのだが…。……ただ、今はとてもじゃないが落ち着かない」
「………そうですね」
男が窓から見えるおどろおどろしい草木の伸び放題をちら、と見て苦笑した。
「そうですね…任せていただけるのしてもやはり好みはあると思います。花一つ植えるのにも種類から色までいくらでも種類がございますから…」
…確かにそうだけど…。正直メンドクサイ…とは思うが、この男と話す機会は増えるという事だ。
「じゃあ、その時は聞いてくれ」
「……あの失礼ですけど…お若いのに…男性なのに…庭って…珍しいかと…」
男が少しばかり千聖に興味を示したような顔になり、口にしていいものかと窺う様に聞いて来た。
「そうかもな……」
普通はそう思うだろう。
「年寄り夫婦とかなら分かるだろうけどな」
千聖がそう言うと、ここに住むのが年寄り夫婦だろうとでも思っていたのか男が少々ばつの悪そうな顔をした。
「あの…大変失礼ですが、ご予算は…?」
顔を戻しまた事務的口調に戻った。
「いくらかかってもいい」
千聖は本をぱらぱらと眺めた。
「あ!これいい!こういうの…置けるか?」
ぱっと千聖があるページに視線を止め、小さな東屋みたいなのが載っている所を指差すと男が覗き込んできた。
「ガゼボ…ですか?」
「何て言うかは分からないが…」
「敷地も広いですし大丈夫ですが…」
「金なら心配しなくてもある」
「………お庭の写真を撮らせていただいてもよろしいですか?」
「………この状態の?」
「最初はまず無駄に生えた枝や草など全部綺麗にするのに…それだけでも日数はかかると思われます。その間ににパソコンで画像を作ってお庭のある程度の配置や予算などシュミレイトして資料を作ってまいりますが…目安としての予算なども」
「あ、いい。じゃそうしてくれ」
「分かりました」
男が満足そうに笑みを浮かべて笑った。
「聞いていい?若いだろうけど…年いくつ?」
「私ですか?25ですが」
「ん?同い年か?俺は誕生日来て25だけど?」
「…同じですね。私は4月生まれでもう25になってますが」
「なんだ…そっか…じゃ、余計によろしく、だ。何しろ俺はこっちに来て誰も知り合いもいないからな」
「よろしくお願いします」
同じ年と知ったからか口調は崩さないが男の雰囲気が少し砕けたように感じた。
いい感じだ。少しずつ中に入っていけばいい。それまではいいクライアントを演じておけばいいのか?
その後、一緒に庭に出て男どこにガゼボを置いたらいいかなど話をしながら写真を撮っていた。まだ鬱蒼としている庭だったが、綺麗になったところを想像するのは楽しい。
この男に会えるも楽しみだし一石二兆だ。
田舎暮らしなどどうなるかと思ったが案外悪くない。馴染んでいる自分に千聖はくすっと笑ってしまった。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学