誰もいなくなった夜の庭を寝室の隣の部屋の窓から眺めた。夜になって空気はますます冷たくなっているのにぶるっと身体を震わせ、窓を閉める。庭全体が大分鬱蒼とした雰囲気がなくなってきた。
そして千聖は彰吾と話す度、顔を合わせる度に少しずつ興味が増していく。
彰吾を思い出し、仄かに表情を緩めると千聖はパソコンが三台も並んだデスクに戻った。広い部屋にあるのはパソコンと横にもなれるソファと必要書類などをいれる棚位。
パソコン用のブルーライトカットグラスをかけ仕事の続きをするためにキーボードに手を置きかたかたと手を動かし始めた。
電話が鳴ったのにはっと起こされた。
まだ眠くて目が開かないまま千聖はのろのろと電話に出る。
「も、しもし…」
『…もしかして寝ていらっしゃいましたか?』
「ああ…おはよう…」
『もうお昼ですけど…おはようございます』
彰吾の声で起こされるのはいい感じかも。
『ちょっとお聞きしたい事があったのですが…後にしますか?』
「いや、いい…おばちゃん来てる?そのまま入ってきていい。階段上がって二階の右側の奥から二番目の部屋だ…」
『…では少しだけお邪魔致します』
ソファに寝転がったまま起きられない。元々寝起きはよくないが、朝方までパソコン前にいてそのままソファにダイブしたのだ。きちんとベッドで寝ていないからかどうにも身体がいう事をきかない。
すぐに小さくコンとドアをノックする音が聞こえた。
「…どうぞ」
「失礼します…。図々しく上がってきましたが…どうなさいました?」
「いや、寝起きが悪いだけだ…。寝たの朝方だったから」
頭をかきながら千聖はどうにか半身を起こしソファに座りなおすと大きく欠伸を漏らした。
「……すみません…起こしてしまいましたか」
「いやいい」
いつもは鋏の音で起きるのにさすがにそれにも気づかない位だったらしい。
「…パソコンが三台も…?」
「ああ…仕事だからね。ウェブデザイナーとかクリエイターってやつ」
「………なるほど」
彰吾が納得したような声を出した。きっと千聖が何もしないでぷらぷら遊んでいるとでも思っていたのだろう。
「起こしてもらった方がありがたい。そうじゃないと本当に昼夜逆転の生活になってしまう」
ふあ、とまた大きな欠伸を漏らした。
「ああ、失礼」
「いえ……ここで寝てたんですか?」
「ああ。朝方までかかって…そのまま撃沈した」
顔をマッサージするように揉み解す。
「……風邪ひきますよ?朝方はもう寒いですから」
「……だな。寒かった」
いいけど欠伸が止まらない。
「眠そうですね…。出直します」
「いやいいよ。コーヒー入れる、ちょっと待って」
「いえ、大丈夫ですよ」
「俺が飲みたいんだ。起きてコーヒー飲まないと目が覚めない」
コーヒーメーカーはここにも置いてあるのですぐに千聖がセットする。
「座って」
自分が寝ていた所に彰吾を勧めてコーヒーを入れ、自分はパソコン用の椅子を引っ張ってきた。
「昨日仰っていた事を入れ直して作ってきたのですが」
「へぇ」
仕事が早いな。見せられた庭の出来上がり予想図にガゼボも入っている。
何枚も出来上がり予想図があって季節ごとにこうなるだろうという花や緑の移り変わりの画像も作ってきていた。
「…うん…いいな」
千聖が頷くと彰吾も満足そうにはにかんだ。
「よかったです。それとお聞きしたい事があったのですが、出来上がった後の庭のお手入れはどうなさいますか?ご自分で…」
「無理」
「……じゃあお任せいただけますか?」
「お任せする。…彰吾が来る?」
「そうですね。ウチはほとんど手がけるのは日本庭園で西洋式はほとんどないですから。俺が主になります」
「彰吾は西洋式庭園担当?」
「担当というか…親方は西洋式は専門外だと。俺はまぁ、勉強はしましたけどね」
「そういや名刺に横文字が並んでいたな。ガーデンなんとかとか、ローズなんとか…」
「ええ。自分は西洋式の庭園を手がけてみたかったんです…」
「じゃ、ウチの話は彰吾にとってはおいしい話だった?」
「ええ。特にここは…。ずっといつかは手がけたいと思っておりましたので…」
「…それはよかった」
にっこりと千聖が笑顔を見せながらコーヒーを入れ、差し出すと彰吾も満足そうな笑みを返して、コーヒーを受け取った。
へぇ…じゃ何か?結構ここは彰吾にとって特別という事か?
なかなかいい感じじゃないか?と思いつつ千聖はくすっと笑みを漏らした。
テーマ : 自作BL小説
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