11時からのコンビニのバイトに早めに宗と一緒にアパートを出た。
どこかでブランチをしようと宗に言われて瑞希は頷いた。
時間が早いからレストランは空いてなくてカフェに入ったが、それだって高いから普通瑞希は入らない。
何も言わないで宗が当然の様に支払いを済ませるのに瑞希はどうしていいのか分からなくなる。
やっぱり明日はパンでも買ってアパートで用意しよう。
その方が気が楽だ。
でもこんないいものばっかり食べているだろう宗の口に合うとは思えない所が難点だ。
昨日の夜も紙袋から出てきたローストチキンや小さなケーキにと施設を出てから、初めてクリスマス気分を味わった。
感動して嬉しがる瑞希に手軽だな、と宗が笑って、じゃあ来年はもっと豪華なクリスマスディナーにしようと言ったのに驚いた。
来年も一緒にいるつもりなのだろうか?
彼氏でもないのに?
宗はきっと彼女が出来れば瑞希の事など忘れるだろうに。
でも偽りの言葉でも嬉しく感じてしまった。
「瑞希、じゃあ7時位に来るから」
「うん…あ、足は本当に大丈夫…?」
「ああ。少しは痛むが全然大丈夫だ。そうだ、携帯」
「え?あ、うん…」
そろりと瑞希は携帯を出した。
教えて貰えるんだ、と嬉しくなる。
番号を交換して瑞希は面映くなった。
一つ宗の中に入った気がする。
「瑞希、もし身体がひどくて持たないようなら携帯に連絡入れろ、すぐくるから」
「………大丈夫…だと思う…」
昨日は初めてイタして起き上がることが出来なかった。今日はだいぶよくなったけどまだ、後ろは鈍痛が走るし、だるい事はだるいが昨日の比ではない。
昨日熱で、と言った手前あまりにも今日が元気満々ではおかしいので丁度いいだろう。
「じゃ、夜な」
「うん」
宗はスーツにコートを着ていた。
やっぱり外の明るいところで見てもかっこいい。
宗と駅で手を小さく振って別れた。
結局車は置いてきた。
だって駐車場の料金を払うんだったら電車代の方がずっと安い。
いつもと同じように慣れた手つきで仕事をこなした。
高校の時からずっとここで働いていて、もう長い。
店長が初めて休んだ瑞希をひどく心配してくれたのに瑞希は申し訳なくて小さくなってしまう。
熱じゃないんです…スミマセン…。
午後6時半、もうそろそろ終わりだ、と思っていたら宗がコンビニに入ってきた。
朝と同じスーツにコート姿だけど手に袋も提げていた。
ちらと瑞希に視線を向けて雑誌コーナーで立ち読みしている。
合わない!
コンビニで立ち読みが変だ。
店長も宗が気になるらしくちらちらと見ている。
連れなんです、と言った方がいいのか悪いのか。
「ぁ…」
宗の傍に女が寄っていった。
外から見えてたんだろう。中に入ってきて真っ直ぐ宗の方に向かって宗の隣に立った。
誰が見たってかっこいいだろう。
分かってる。
女は話しかけるタイミングを計っている様だった。
見たくない、と思いつつ、凝視していた。
その宗が読んでいた雑誌をぱたんと閉じ、棚に戻すとまっすぐレジに入っている瑞希の元に向かってきた。
「瑞希、7時だ。終わりか?」
「え?あ、う、うん…」
「店長さんですか?」
「え?あ、はい」
宗が店長に向かって話しかけた。何言うの?
「昨日は休ませて申し訳ありませんでした。瑞希は行くと言ったのですが私が止めたので」
「いえ、いえ、無理しないでいいんです。瑞希くんは休んだ事もないから」
店長が優しそうに笑ったのに宗は満足そうな顔を見せた。
「瑞希?着替えなくていいのか?」
「あ、着替えてくる」
瑞希はバックヤードに慌てて入っていった。
びっくりした。
宗から話しかけてきて、店長にまで…。
いいけど、なんで宗が休ませた、なんて?
いや、原因は宗ではあるけれど。関係はなんて説明すればいいのか?
身内が誰もいない事を店長は知っているし、関係を聞かれたら困ってしまう。
なんか我が物のように言われたけど…。
制服を脱ぎながら瑞希は嬉しいような理不尽なようなという複雑な気持ちが入り混じった。
後ろから外に出るとすでに宗も外に出ていて瑞希を待っていた。
スーツにコート姿。
大人な感じに思わず見惚れそうになる。
自分も就職が決まってああいう格好をする様になるだろうけど、きっと雰囲気は全然違うはずだ。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学