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雪に酔って 1

 デートだ!

 ……千聖の中では。

 日曜日の朝、うきうきした気分で千聖は彰吾が来るのを待っていた。珍しく早起きしてそわそわと落ち着かないなんてまるで本当に初心な高校生みたいじゃないか。しかも健全なデートに違いないのに。
 いや、そもそもデートじゃない!っつうの。…彰吾にとっては。

 車も千聖のスポーツタイプではちょっと、と彰吾が苦笑して自分の車で来るらしく、今日は助手席らしい。そのままお持ち帰りしてくれればいいのに…とか、余計な事まで考える。
 リビングの窓から何度も外を確認したり、携帯を取り出して時計を確認したりとどうにも落ち着きがないのに自分でも呆れる位だ。本当にこんなそわそわした気持ちなんて今までの事を思い出してもなかった事かもしれない。

 しかも純愛ときてるんだから!二五にもなって何をしているんだろう?綺麗になってきた庭も彰吾が手がけたもので、まさかあの鬱蒼としたまるでホラーハウスだった庭をどうにかしたくて手配してもらった先の職人にこっちに来て早々恋するなんて思ってもみなかった。

 恋とか!
 自分で思ってかっとしてしまう。散々遊んできて今更な気もするが…心の中が浮かれまくっているのだから仕方ない。
 パァッと車が駐車場に入ってきてクラクションを鳴らされたので慌てて千聖は外に出た。
 「おはよ」
 「…ちゃんと起きてたんですね。どうぞ。汚いですけど」
 くす、と彰吾が笑った。いつも千聖の起きる前からパチンパチンと鋏の音がして、千聖は寝起きに一番に挨拶に外に出て行くがそれは大概がもう彰吾達職人さんが一休みに入る頃だ。それに比べたら今日はずっと早起きでしかもすっきりと目覚められた。

 「…起きてたよ。…お邪魔します」
 助手席のドアを彰吾が開けてくれて乗り込んだ。彰吾に似合うような黒のRV車で、またちょっとどきりとしてしまう。格好も職人姿でもないし、なんでこう普段と違う所にどきっとしてしまうのか…。
 「ちょっと時間かかるので寝ててもいいですよ?」
 「……大丈夫だよ。寝起きが悪いだけでいつでも眠いわけじゃない」
 くっくっと彰吾が笑っているのにほっとする。

 車を走らせながら全然土地勘のない千聖にいろいろと彰吾が教えてくれ、目的地へと連れて行ってくれた。
 車から降りると空気がひやりとした。山間は大分気温が低いらしい。肌寒くちょっと薄着だったかなと思っていると彰吾が車の後ろから厚手のパーカーを出してきた。
 「少し寒いでしょう。これ着てて」
 「あ……りがと…」
 「車に積みっぱになってたヤツですけど」
 彰吾の物なのだろう肩にかけられたものに袖を通すとかなりぶかぶかだ。

 「でか…」
 彰吾が千聖から視線を背けてぷ、と笑いを噛み締めているのにむっとする。袖が二まくりもできそうな位だ。
 「…かわい…」
 ぼそりと彰吾の呟いた言葉にかっとしてしまう。
 可愛いって言ったか!?
 言った!絶対!……少しは彰吾も千聖の事を可愛いとかって思うのか!?…二五の同性に普通は思わないだろ?少しは脈あるのだろうか…?

 しかしどうにも彰吾がどう思っているのかが見えなくて戸惑ってしまう。
 「千聖、こっち」
 彰吾に背中を押されるようにして彰吾と一緒に並んで山道を歩く。
 紅葉を見に来ているのか結構人の数も多いが…そんな事よりまるでエスコートでもされているように彰吾が千聖を連れ歩くのにドキドキしてしまう。

 滝の方まで歩いていくのにもでこぼこした細い道に千聖を気遣うようにしたり、滝の飛沫で足元が濡れて滑りそうになっていると千聖に手を伸ばして身体を支えるようにしたり、さすがに手を引いてまではなかったものの、どう見たってエスコートだ。 

 これ…いいのか…?
 「あ…っ」
 ずるっと千聖が足を滑らせるとすかさず彰吾が千聖を抱きとめた。
 「ほら。滑るからと言ったでしょう」
 「…悪い。…ありがと」
 頼れる腕だ。
 「都会育ちでしょうからねぇ…歩きなれないでしょう?こんな山道」
 「………ああ」

 彰吾が楽しそうに笑ってのに千聖は自分の身体を抱きとめてくれた彰吾の腕をぎゅっと掴んだ。耳元に彰吾の低い声とくすくすと笑う声が聞こえてきて恋情がさらに思いつのってきそうだ。
 「千聖?…どうかしました?」
 「いや?」
 ぱっと掴んでいた手を離し、大丈夫だと彰吾から離れる。

 …どうしようか…さらにもっと彰吾に惹かれてしまいそうだ。いったいどこまでこの気持ちは育つものなのだろうか?
 どうにも自分も初めての気持ちで自分自身が分からないのに千聖自身も戸惑っていた。

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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