あの紅葉を見に出かけた日からさらに彰吾が近づいた気がする。
そしてさらに自分の中が彰吾をもうただの身体でけでいいなんて言うような存在ではなくなっていた。
勿論出来る事なら抱いて欲しいとは思う。けれど、それは今までのような遊びで、一夜の欲望のはけ口ではなく千聖を千聖として分かってして欲しいと思ってしまうのだ。
…愛されたい、と。
散々遊んできて何を今更と自分でも思うが、どうしても初心な反応をしてしまっている。そしてその想いも彰吾の存在もなくしたくないと思ってしまうんだ。
自分が変な事をして彰吾に避けられるようになるのは耐えられない。
ノーマルの男に惚れるなんてバカすぎるが気持ちは自分でいう事を利かない。
ちょっと優しくされただけでも心が嬉しいと浮き足立つんだ。
何故こんなに惹かれるのか。
彼女はいるのか?と聞いた事もなかった。多分…いないはず。飲みに来ないかと誘うといつでも彰吾はやってくる。一緒にいても女から電話がかかって来る事もない。休みの日に千聖を誘ってきたのもいない証拠だろう。
未だ彰吾が家に居辛いと言った理由は聞いた事はなかったのだが…。そう言っていた彰吾の言葉に気をよくして週の半分は一緒にいるような感じだ。
一ヵ月にも満たないのにこんなに深い付き合いなんて自分でも信じられない。いや、深さで言ったら遊んできた男の方が深いのか?
今日は彰吾を誘ってはいなくて広い家に一人。コーヒーを片手にパソコンに向かっていた。
日付が変わってもうそろそろシャワーを浴びて寝ようかと思った時だった。真夜中だというのに携帯が鳴った。こんな時間に彰吾だ。
「もしもし?」
今までこんな時間に電話などなかった事でどうしたんだろうと思いながら電話に出た。
『千聖…起きてた…?』
「起きてたよ。今からシャワーして寝ようかと思っていた所だ」
『…こんな時間に非常識だと思うが……行っていいですか?』
「勿論」
『すみません…。もうすぐ着く』
何かあったのか?彰吾の声が苦しそうだ。
シャワーをしようと思ったが彰吾がもうすぐ来るというのでやめておく。もうすぐと言った通りに五分もしないでインターホンが鳴った。
「どうぞ………っ!」
ドアを開け彰吾が中に入ってきた瞬間に彰吾に抱きしめられた、
「こんな時間に…すみません…」
「べ、つに…いい、けど…身体冷たいぞ?」
「ちょっと頭冷やしてた…」
「……少しだけ酒飲むか?ワインがいいかな?」
彰吾が千聖を離して小さく頷いた。
リビングに移動してグラスに注いで彰吾に手渡す。
「…………家にはもういられない…」
小さく吐き出すように彰吾が言い、それを聞いた千聖はそっとソファに座る彰吾の隣へ腰かけた。
「……どうして…?と…聞いても…?」
今まで聞いた事はなかったのだが…。
「………俺は小笠原の義理の息子なんだ。…お父さんの親友の子で俺の本当の両親が亡くなって…引き取ってくれた…」
「…家族の仲は悪くないって言ってたよな?」
「ああ…。悪くない…。俺は感謝してるし、仕事も好きだ」
「うん。それはよく分かる」
くすっと千聖が頷いて笑うと彰吾も苦笑を漏らした。
「小さい頃から…植物図鑑が友達のような変わったヤツだったんだ」
「はは…それも分かる」
千聖が笑うと彰吾の表情も落ち着いてきた様子だ。
「…妹がいるんだ。…俺の七つ下」
………ああ、なるほど。
千聖はすぐに納得した。
「……彰吾は妹でしかないんだ?」
「…そう」
「でも妹さんは…女として彰吾を見ていたんだ?」
彰吾が顔を歪ませた。
「……ずっと分かっていたけど知らないふりをしてきた。いや、口で言われた事もあったけど…」
彰吾が頭を横に振った。
「もう家には戻らない…。無理だ」
「…………ヤっちゃったの?」
「するか!」
…なんだ。
「無理だ!どうしたって!エリカ抱くくらいなら…」
じっと彰吾が千聖を見て視線を絡ませたがはっとした様に慌てて千聖から目を背けた。
…何?
どくんと千聖の心臓が大きく跳ねる。
妹を抱くくらいなら千聖の方がいい、とでも…?いや、まさか…。そんな都合のいい事…。
どくどくと千聖の心臓が大きく脈打ってくる。
いちかばちか…かけてみるか?これはチャンスじゃないのか…?
彰吾は行くところもなくて千聖の元に妹から逃げ出してきたんだ。
それならば…千聖が捕まえてもいいのでは…?
「彰吾…」
千聖はテーブルにワインを置いて彰吾の腕に手をかけた。
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