すでに夜で空気が冷たい。
鼻が赤くなりそうだ。
風が吹くと震えそうになる。
「う~~、寒い」
「もう少し我慢しろ」
宗が飯を食べていこうと誘ってくれたので大人しく後ろをついていく。
「身体は?」
「………大丈夫…。宗は?足?」
「ん~…ちょっと痛む、かな」
「癖になっちゃうから!やっぱり無理してだめだよ!」
「いや、我慢出来ないくらいじゃないから。ところで、コンビニのバイトって年末年始もずっとか?」
「休みが29日と1月2日。それ以外はずっと」
「………そうか」
「ん」
学校が休みの時は稼がないと。
宗が瑞希を連れ、入ったレストランはやっぱりどうみたって高級そうだ。
店の人に案内してもらって席に座っても落ち着かない。
「俺、マナーとか…知らないよ…?」
「別にいいだろ。外国でもない」
何でもないように宗が言った。コートを預ける姿だって慣れたもので瑞希には別世界だ。
しかも自分は安いパーカー姿で申し訳ない。
「あの」
つんと宗の袖を引っ張った。
「俺…こんな格好だし…まずくない…?」
宗は驚いた表情を見せた。
「あ、悪い。何にも考えてなかった。俺は何とも思わないが、…お前が嫌か……」
宗が眉根を寄せた。それは瑞希に対してではなくて、瑞希の心に対してだと分かる。
「あ、んん…宗が、いいなら…別に…」
自分みたいなのが宗の隣にいるのが申し訳ない。
きっとドレスアップした女の人といるほうが絶対にしっくりくるはずだ。
瑞希は落ち着かないまま食事をした。
おいしかったけど、どうにも場違いで瑞希は顔を俯けるしかない。
「顔上げろ」
宗が憮然として言った。
むっとして瑞希が顔を上げると宗の顔は困惑の表情を浮べていた。
「悪い…」
「………何が?」
「…………いや」
瑞希の心情を分かったのだろうか?
瑞希は周りの目線が気になって仕方ない。自分は別にいい。でも宗の連れが自分では宗は恥ずかしいだろう。
だけど宗は全然そんなそぶりがなくて、瑞希は泣きたい気持ちになってくる。
多分昨日のテイクアウトの食事に感動してた瑞希の為に連れて来たのだろうとは分かるけれど、今日は全然味が分からない。
昨日はあんなにおいしかったのに…。
どこか虚ろのまま瑞希は食事を終えた。
「帰ろうか」
宗が促したので小さく頷く。宗から離れて立とうとしたのに宗が瑞希の腕を捕まえた。
「そ、宗…離れた方いいって」
「…何故?」
宗が首を傾げた。
「俺なんかと一緒の宗が恥ずかしい、から…」
宗がむっと怒った表情を見せた。
「なんで俺が恥ずかしいんだ?全然恥ずかしくなんかない。来い」
そのまま宗は瑞希を連れて会計を済ませる。
ありえない値段。
一回の食事に1万円越すってどういう事か!?
「瑞希」
宗が自分の首に巻いていたマフラーを渡してきた。
「巻いてろ」
「で、も…」
「いいから」
宗が瑞希の首にかけてきたので瑞希はその肌さわりのいいマフラーを首に巻いた。
暖かい…。
これもいいものらしい。薄いのにすごく手触りがよくてほわりと温かい。
宗が瑞希の腰を押して店を出た。
ごめんなさいと謝りたくなる。
隣にいて、こんな自分が横にいて。
「…ごちそうさまでした」
「……いや、かえって悪かった」
宗が瑞希から目線を背けた。
「考えなしだった。……くそ、まだガキだな」
宗が前髪をかき上げながら悔しそうに呟いた。
「?」
ガキ?
瑞希が宗をきょとんと見る。
「いい。帰ろう」
そう言って宗が瑞希の腕を引っ張った。
帰ろうって…瑞希のあのぼろアパートに?
電車に揺られて宗と並んで立つ。
瑞希よりも高い背。
窓に向かって立つ瑞希の後ろに宗が立っている。
暗い窓に映る宗を瑞希は見ていた。じっと宗が後ろから瑞希を見ている。
瑞希を買う、と言った宗だが、それに対して宗は何も言ってこないし、瑞希も何も考えられない。
こんな高い食事なんかいらない。
帰ろう、という言葉の方がずっと嬉しかった。
コンビニに迎えに来てくれたのも。
誰も自分の内側に入れたことなどなかったのに。
でもやっぱり自分なんかが宗に合うはずもない。
黙って瑞希は窓に映る宗を見ていた。
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学