はのんのBL部屋

　それからはわざとすれ違いの生活だ。彰吾が起きて千聖が寝る。唯一時間が重なるのは夕食の時。
　それだけは意識して一緒に過ごした。

　最初からこうしとけばよかったんだ…。
　それなのに思わず千聖が身体だけでも、なんて欲を出したから…。
　彰吾はほっとしているのだろう…きっと。好きでもない男を抱かせられて…妹よりかは千聖の方がましだっただけだ。彰吾の中の禁忌が妹よりも千聖のほうがましだった、というだけだったのだろうから。

　それなのに……。隣の部屋に彰吾がいると分かって千聖は体が疼く。
　千聖が時間をずらしてからはキス一つもない。…当たり前だ。
　全部自分が招いた事だ。
　自分勝手で我儘だ。

　余計な事を考えないようにと千聖はひたすらＰＣに向かって夜毎仕事をこなした。おかげでさくさくと仕事は減っていく。それを考えれば自分はやっぱり夜型人間なんだと思ってしまう。
　ガゼボも庭に据え付けられた。　
　もう寒い時期で外で一杯なんてキツくなってしまって夜空を見上げながらは春までおあずけだろう。

　…でも。
　ちらっと隣の部屋の方に視線を向け千聖は浅く溜息を吐き出した。
　春まで…彰吾はいるのだろうか…？
　今更元の状態に戻れるはずなんかない。もう身体はすっかり彰吾を覚えてしまっている。そして目が彰吾を追おうとするんだ。

　隣にいるのに…。

　ダメだ、と疼く身体のほとぼりを冷まさせようと千聖は外に出る事にした。もう11月…。いつの間にこんなに時間が過ぎたのだろう…。
　こんなに千聖の中で彰吾の存在が大きくなるなんて思ってもみなかった。

　どこがいいんだ？
　最初は好みだ、と思っただけだ。
　抱かれるのに、ここに来るまでの以前はそれだけで十分な理由だった。

　千聖は部屋を出て階下に向かった。もう時間は真夜中の二時を過ぎている。朝が早い彰吾はもう寝ているはず。
　まだ抱かれる前二人で酒だけを酌み交わしていた時はそんな遅い時間まで起きていた事もあったが、千聖が仕事をしているので彰吾は遠慮しているのだろう。

　彰吾から来てくれれば自信になるのに…。臆病になっている千聖はもう彰吾に自分から求めるなんて都合のいい事は言えそうになかった。だってそれじゃ千聖自身が余計に寂しくなるだけなんだ。
　心が伴ってなくともなんともなかったはずなのに！
　身体さえ満足すればよかったはずだったのに…。
　彰吾の事で煮詰まっている。そのくせ離したくないんだ。離れたくないんだ。
　どこが…好き？
　そんなの知らない。いつの間にか…だ。

　ちょっとした事でくすりと笑う顔にも惹かれる。同い年なのに丁寧に話す硬いところも。熱いキスも…。
　はぁ、とつい彰吾のキスを思い出して千聖は吐息を漏らし、そのまま外に出た。
　「さむ…」
　ひやりとした空気だが頭を冷やすのには丁度いい。
　そのまま出来上がったばかりのガゼボに向かった。

　「…うん…いい…」
　もう寒くてこれからしばらくは来るにしても日中になるだろうけど、やっぱり夜がいい。
　月の光と星の瞬き。
　街灯もないのに影が出来るのが不思議で仕方ない。
　キンと冷えた空気に仄かに白い息。満天の星なんて見た事もなかった。

　ガゼボは半分ほどは囲われているが風除けにもならない。
　屋根はかかっているがそこから身体を乗り出して空を見上げた。
　庭は広いと言っても広大というほどでもないのだからそんな所にこんな物を置くなんてただの道楽だ。でもやっぱり置いてよかったとも思う。

　「あ…」
　家から出てくる人影を見つけた。それはたった一人しかいない。
　「千聖…？」
　千聖が外に出たのを彰吾が気付いたらしい。手にジャケットを持って出てきた。
　「彰吾！冷えるだろう！」
　「冷えるのはあなたでしょう！…何しているんです？」
　「…庭と空を見ていた。こんな肺が冷えるような空気も初めてだ」
　「まだまだですよ。もっと寒くなりますから」

　「雪も楽しみだ」
　「……………そんな事言うのは子供位ですよ」
　彰吾が呆れたように言いながら千聖の身体にジャケットをかけた。
　「………どうして…？」
　出てきた…？
　「…ドアが開く音がしてあなたが外に出て行ったのが分かったので…追いかけてきたんですけど？」
　だから…それはどうして…？

　「冷えます。入りましょう」
　彰吾がそっと千聖の背に手を添えて来たのに千聖は小さく頷いた。
　「……ガゼボ…いいな…」
　「ここで酒を飲むのは寒いので春過ぎないと無理ですね」
　…誘った事…覚えていたんだ…。
　「そうだな……」
　そこまで彰吾はいてくれるのか…？とは千聖は聞けなかった。

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続きに拍手コメお返事です^^