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熱吐息 adagio~ゆるやかに~3

 「あのさ、スーパー寄っていい?」
 電車から降りて宗に聞いた。時間はまだ9時過ぎ。近くのところは遅くまでやってるから。
 「何買うんだ?」
 「パン。明日の朝ごはん作る」
 「………作れるのか?」
 「一応。というか朝なんて作るの範囲に入らないと思うけど?夜も今日みたいなの無駄。一回の食事に1万なんて信じられない」
 それがあったら瑞希は何日もつか。
 「ホストで働くようになってからは時間なんくてあんまり作ってなかったけど、一人暮らし長いし」
 「…長い?」
 「高校からだもん」
 「……親は?」
 「いない」
 別に施設で、という事は隠してはいない。でも宗はそれを聞いてどう思うだろうか?
 自分がなんとなくみすぼらしい人間に思えてくる。

 「じゃあ何か食材買ったら作れるのか?」
 「多少は。美味いかは知らない。……知らないってか宗の口には合わないか…」
 「何故?」
 何故?問う?そこ。
 あんなものばっか食ってるなら合うはずないだろう。
 瑞希は答えるのも虚しいのでスーパーに有無を言わせず向かった。

 夜で値引きが多い。
 いっぱい色々と欲しいが…。
 悩んでいると瑞希の手から宗が肉のパックを取り上げると籠に入れる。
 籠持ってるのは宗。
 「出すって言っただろ。俺の分まで食わせてくれるなら出す」
 「……食わせるのは、いいけど…。じゃあ、半分、自分の分は払うよ」
 「いい」
 いいって言われても…。
 なんか何もかも出されるのは嫌だ。
 「なんだ?お前を買ったのは俺だろ?その俺が出すって言ってるんだからいいだろ」
 「………」
 瑞希は俯いて唇をかんだ。
 「…そうだね。じゃ、買ってもらう」
 瑞希はいるものを次々と籠に入れた。それでも値引きシールがあるやつを選ぶのはもう反射的だ仕方ない。

 泣きたかった。
 やっぱり買われたんだ。
 生きたおもちゃ、なんだろう。
 だよね…。
 
 「瑞希…?」
 「なに?」
 「………いや」
 顔が歪みそうだ。目が潤んできそうだ。
 店の中で温かくてこのマフラーは暑すぎる位だ。
 外に出ればすごく温かいのに。
 温度差が激しすぎる。
 宗みたいだ。
 優しい、んだろう。
 けど、瑞希を突き落としてくる。
 自分は買われた…。
 自分から言ったのに自分で苦しくなっている。
 瑞希は必要最小限だけ籠に入れて宗と並んで会計を待った。
 当然のように宗が払って。
 宗は大きな紙袋も持ってるのにさらに買い物袋まで提げて。
 瑞希が持つと手を出したのに宗はいいから、と持たせてくれない。
 そのまま無言で瑞希のアパートに宗と並んで歩いて帰った。

 自分は何を望んでいるのだろうか?
 宗になんでも払ってもらうには嫌だ。
 同等でありたい。
 でもどうみたってなれるはずはないし、そもそも瑞希が宗の隣にいる事自体がそもそも間違っているんだと思う。

 買ってもらった食材を冷蔵庫に片付ける。
 「宗…シャワー、する…?」
 「…ああ」
 宗がスーツを脱いでたので声をかけるとパンツ一丁でシャワーに行った。
 きっと宗には立派な家があるだろうに…。でも誰もいないと言って瑞希のこの宗には合わないぼろアパートにいる。
 今まで一人の空間がすべてだったのに、背の高くて存在感ある宗がここにいても全然違和感がないのに驚く。

 それに瑞希自身が素だった。
 普通だったら自分を保護するためもっと自分を取り繕っている。
 綺麗だと褒められる容姿は自分を守る鎧だ。
 でも宗には、多分一番初めが動揺からだったから、取り繕ってる暇などない位に慌てふためいていたから、きっとそのままなんだと思う。
 そうじゃなきゃなんで普通にしていられるのか分からないから。
 それに宗は瑞希を罠にという風ではない。
 どちらかと言えば瑞希のほうが宗に貢がせているようになっているじゃないか。

 そうじゃないのに…。
 そんなつもりなんてないのに…。
 買う?って聞いたけど、買って欲しいんじゃなかったのに…。
 でも宗は瑞希を買ったつもりらしい。
 また顔が歪んできて鼻の奥がつんとしてきた。
 唇をぎゅっと引き結んで我慢する。
 泣くな…。
 そもそもなんで泣きたくなるのか…?
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

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