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花に酔って 1

 うっすらと庭に雪が積もって千聖は二階の窓を開け、白い息を吐きだしながらその景色に見惚れた。 
 年数を経ればそう珍しい事でもなくなるのだろうが千聖は雪にあまり馴染みがなく、そして人の歩いていない庭の綺麗な白銀の世界が美しいと千聖は思う。
 「風邪ひきますよ」
 窓際に立っていた裸の千聖の身体をベッドの中から彰吾がベッドに引き戻した。
 「ほら!身体が冷たくなってる!」

 エアコンのスイッチを入れてから千聖の身体を温めるように彰吾が手で千聖の身体をさすってくる。
 「大丈夫だ」
 「大丈夫じゃないですよ。裸で暖房もつけてない部屋をうろうろするなんて」
 お小言の様に言う彰吾がおかしくて笑ってしまう。
 「綺麗だったんだ…」
 「着替えてからだっていいでしょう?」
 「まぁそうだけど」

 朝のベッドの中が温かい。
 庭はもう出来上がって、千聖がここに来た頃のおどろおどろしい影はまったくない。そしてこの庭を写真入りで紹介した彰吾の為に千聖が作ったHPももう公開して、それを見た人で近い距離にいる人がちらほらと庭を見に来るようになっていた。

 その他にもやはり千聖の声かけから繋がってデザインの案を見せて欲しいとういう依頼に繋がりそうな件もまた入って来た。まだ、名前も売れてないのですぐに依頼に結びつくまででいっていないがきっとそれもすぐだろうと千聖は思っている。

 最初の案件の話はどうやら纏まりそうで彰吾デザインに決まりそうな感じ。今はそれの最終段階まで来ているらしい。
 あくまで千聖は声だけで内容の事まで逐一聞く事もない。ただ彰吾の満足いく様な手伝いができればいいだけだ。
 今は同じPC部屋に一緒に詰めている事も多いが、なにしろ彰吾の日課は庭の手入れだ。暇があれば庭の手入れに行ってあちこち整えたりといつでも綺麗な状態を保っている。

 綺麗に整えられた木々に薔薇に木に囲われた花壇に…今朝は雪で一面うっすらと白銀に覆われてしまっていたけど…それもまた綺麗だと思った。
 こっちにきてから木々や景色の移り変わりがよく分かる。葉っぱが赤や黄色に色づいていたと思っていたらそれが落ち、今度は白銀の世界だ。そして春になればピンク色に、夏になれば深緑に染まっていくのだろう。 

 ビルだけが立ち並ぶ中ではこんな身近に目で感じる事はなかったが、こっちに来てからは空気も景色も季節感が目に訴えてくるようになった。
 こういう所で彰吾は育ったんだ。そしてだからこそ感性がすぐれているのだ、と思う。
 自分とは違った感性だ。…だから面白い。

 「千聖?今日の予定は?ずっとPC?…どこかに出かけません?」
 「出かけない。…彰吾?返事今日来るんだろう?」
 「…う」
 彰吾が千聖の頭の上で怯んだ声を出したのに笑ってしまう。返事を先延ばしにしたくてそんな事を言ってるんだ。自信をもっていいのに。
 「大丈夫だって」
 「…………だといいですけど」
 はぁ、と心配そうに彰吾が溜息を吐き出したので軽くキスする。

 「…このままベッドいません?」
 「起きる」
 「いっつも朝は目覚めよくないのに…なんで今日はそんなに目覚めすっきりなんですか…」
 「雪だから」
 「……………ほんと子供と一緒」
 「なんか言ったか?」
 「いいえ?」
 キスを軽く何度も交わしくすくすと笑った。どうしてこんなに心が穏やかで幸せに思えるんだろう…。
 

 「来た!」
 向いのPCで彰吾が声をあげ、千聖もぱっと顔を上げた。
 「…………どうだった?」
 「……………オッケーみたい……」
 「よかった!……彰吾、お父さんに知らせてきたら?きっと心配してるだろう?」
 どこか呆然としているような彰吾に声をかければそうですね、と彰吾が頷いた。
 ……よかった。
 先行きに不安を覗かせていた彰吾だったがこれできっと自信にも繋がるだろう。
 「よかった…」
 もう一度千聖が声をかけると彰吾も噛み締めるように頷いた。

 「ありがとうございます…。千聖のおかげです…」
 「まだだよ。さらにもっと頑張らないとな」
 「ええ!もちろん!あなたに捨てられないようにしないと」
 「……………それはない」
 そんなのはないと言ってるのに…。むしろ本当は仕事なんて来なければいいのに…なんてちょっと本気で思っているとか言わないけど。

 「…それでなんですが…。…なんか相手の社長が一度会いたいと…」
 「え!?」
 「詳しい話をと…」
 ………だから…嫌なのに…。
 そして千聖のPCにもメールが届いた。
 合わせて自分の所のHPもリニューアルしたいから彰吾と一緒に来い、という社長からの内容のメールだった。

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