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熱吐息 adagio~ゆるやかに~4

 「…瑞希?」
 宗の声にはっとした。ぼうっとしていたらしい。
 「な、なに?」
 「……いや。お前も行って来たら?」
 「ん。だけどその前に湿布貼って…」
 「いいよ。自分で貼っておくから」
 宗の言葉に瑞希は顔を俯けて小さく頷いた。
 貼ってやりたかったのに。
 瑞希はそそくさと着替えを用意してシャワーに向かった。


 瑞希がシャワーを出てきたら宗はちゃんと足に湿布を貼って、そして、寝てた。
 どんとベッドに横になって。
 狭い簡易ベッドで足がはみ出している。
 瑞希は暖房を消した。
 どうしようか…。
 「ね、宗…」 
 つんと宗の服を引っ張った。布団も半分下敷きにしてて風邪ひいちゃうだろう。
 「宗ってば…」
 「んん…?」
 宗はごそごそと動いて体を避け、瑞希を引っ張り込んで布団をかけた。
 「瑞希あったかい…」
 耳元に宗の声が響いてぞくっとする。
 この声がだめだ。
 声を聞くと欲しくなってしまいそうだ。

 「で、電気消してない、から」
 宗の瑞希の身体に絡まっていた腕の力が緩んで瑞希は起き上がって電気を消し、また戻ると宗の腕が再び瑞希を捕まえた。
 「…今日は疲れた。寝る」
 「…うん」
 半分もう宗の声は寝ぼけているみたいだ。
 「瑞希も今日、きつかっただろ?寝ろ」
 「…う、うん…」
 確かにだるいはだるかったけど…。背中に宗がいては昨日の朝の事がリアルに思い出されてくる。
 昨日の夜はさすがにすとんと眠ってしまったけど、今日はまだ目が冴えている。

 「…なんだ?眠くないのか?」
 「そんな、ことない、よ」
 だから声がヤバイから。耳に宗の声が聞こえる度にぞくぞくしてしまう。
 「……まだダメだろ。今度はちゃんとゆっくりしてやるから…」
 「そ、そんな、事…」
 「いいから。寝ろ」
 すぅと宗は眠ってしまった。
 本当に疲れていたらしい。何してたんだろう…?
 仕事?なんの?
 宗が規則正しい寝息なのに安心してそっと宗の手に自分の手を重ねた。

 温かい。
 宗の心臓の音と息遣いにひどく安心してしまう。
 いつまでこうしてくれるんだろう?
 買ったといったけど、それ以上なにも宗は言ってこない。
 まさか1千万なんて考えてないよね?
 ありえない事に瑞希は小さく頭を振った。
 お金なんていらないから、ずっとこうしていたい…。

 どうしよう…。
 全然宗の事なんて分からないのに。
 何にも教えてくれないのに。
 きっと瑞希が信用ならないからだ。
 いつでもこのまま宗が消えれば終わりに出来るから。
 唯一繋がってるのは携帯だけ。
 それだって番号変えたらそれで終わりだ。
 「宗……」

 一緒にいて、って言ってみたい。
 このままいたいって…。
 何もいらないのに。
 こうして抱いて温かいだけで瑞希の心には今まで知らなかった人の温もりが感じられるのに。 
 こんなの初めてなのに。
 知らなかったのに…。 
 知らないままの方がよかった。
 知ってしまったら人が恋しくなってしまいそうだ。
 だってこんなに温かいんだもの。
 でもそれが誰でもいいんじゃない。
 でも宗は違うから…。
 宗に言ってなかった自分の事を言ってしまった方がいい。
 今なら宗が呆れて離れても大丈夫かもしれない。

 「……無理、かも…」
 大丈夫じゃない。
 まだ三日しかたっていないのにこんなに存在が嬉しいなんて。
 まるで瑞希を必要としてくれているみたいにぐっと宗の腕が瑞希を捕まえている。
 このまま離さないでいてくれればいいのに。
 このまま…。
 「宗、…」
 小さく何度も名前を呼んでみる。
 だって今は宗は瑞希のものだ。
 どこで何してるか知らないけれど、今ここにいる宗は本物だ。

 好き、なんだ。もう…。
 なんでこうなっちゃったんだろう…?
 車を買っただけだったのに。
 宗には大迷惑な話だろう。
 車で引っ掛けられて足痛めて、ぼろアパートで、男抱く羽目になって、金使わせられて。
 自分がよほどひどく思える。
 それなのにその自分は宗の存在が間近にあるのに満足してるのだ。
 「……ごめん…」
 金使わせるつもりなんかなかった。
 自分が払わなきゃない方なのに。
 宗は全然怪我の事も何も言わない。
 浮かれてた瑞希が悪いのに。
 「ごめん……」
 さわさわと瑞希は自分の身体に回っている宗の大きな手を撫でた。

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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