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花に酔って 7

 「………俺の…ただの嫉妬です…」
 唇を離して彰吾が千聖の耳を食みながら囁く。
 「俺はただの田舎もので…なにもなく、千聖に全部委ねて…芹沢社長とも寝た事あるのでしょう?…あんな人とも…と…俺の勝手な劣等感です…。千聖…俺はあなたが何をしていたとしてもあなたが好きです。前にもいいましたが過去は過去…。俺が知っている千聖はあの洋館で穏やかに笑っている千聖です…。俺の愛しているのはそんな千聖です…」

 「それ、なら……あんな事…言うな!こっちにいた俺とは別なんだ…初めて…俺は彰吾に…会って…人になったのに…」
 「千聖」
 千聖がわなわなと身体を震わせ涙を零し、彰吾はそれを舐め取った。
 何もない自分に何故千聖がここまで想ってくれるのがどうにも理解できないが、それでもこの千聖の言葉が彰吾の心を震わせた。

 自分に会って人になれた…なんて…。そんな事…。
 「千聖……」
 離せない、絶対に…。
 「愛してます…。あなただけ。何もない俺であなたがいいと言ってくれるならずっとずっと傍にいさせてください」
 「なんで!そんな事を言う!?じゃあ彰吾は地位も名声も手に入れたら俺から離れるのか!?」
 「そんな事はない」

 「俺は何もいらないんだ!……じゃあ、俺があの家も財産も何もかもなくしたら彰吾は離れるのか!?」
 「ないです。そうなったら俺ががむしゃらにでも働いて家を取り戻します」
 「じゃあいいだろう…?…俺はただ彰吾といたいだけだ…。おまえの傍は安心する…こんなの…誰にも感じた事がないのに…」
 「………バカな事は二度と言いません…千聖…」

 涙を必死に我慢している千聖が愛おしい。自分のバカなくだらない嫉妬や劣等感が千聖を泣かせたんだ…。自分が千聖にふさわしくなればいいんだ。今は無理でも自分がのし上がればいいんだ…。
 「千聖…」
 千聖の頬にキスし、頬を包んで鼻や瞼やあちこちにキスする。可愛くて仕方ない…。綺麗で可愛くてエロくて…耳を食んで耳にもキスすれば擽ったそうに千聖が身体を捩る。

 「……恥かしいんだけど?」
 全然恥かしくなさそうな口調でぶっきらぼうにそう言っているけど千聖の耳が熱くなっているのが分かれば彰吾はくすりと笑ってしまう。
 「千聖…可愛い…」
 ぎゅうっと千聖を抱きしめ何回も耳にキスする。

 「耳じゃ、なくてっ」
 訴える千聖の唇を塞いで舌を絡めれば千聖がすぐにそれに応えてくれる。
 ねっとりと舌を絡め唾液を絡め、そして段々と息があがってくる。
 「んは…ぁ…しょ…ご…」
 美味そうに満足そうに千聖が舌を絡めている。このまま押し倒してしまおうかと思ったら廊下が騒々しい。

 「……来た」
 ついと千聖が彰吾の唇から離れ濡れた唇を手の甲で拭い身体も離した。
 「…本当に…彰吾…嫌いにならない…?」
 「なりませんよ」
 当然です、と答えたがまだ千聖はどこか不安そうだ。
 「…俺がした事だから…仕方ないけど…」
 はぁ、と千聖が溜息を吐き出して彰吾から視線を逸らせた。

 「千聖!開けなさい!」
 「美紀さん!」
 ドアの外から声が聞こえ千聖はすっと立ち上がると乱れていた着衣をゆっくりと直し、無駄に広い部屋を横切るとドアを開けた。
 「……騒々しい」
 「なんですって!?だいたいどうしてお前がここにいるの!?」

 「仕事で来たんです。ここが長澤のものだと分かってたら来てませんよ。だれが好き好んであなた方の顔が見たいわけないでしょう」
 怜悧といっていい無表情の千聖の顔と口調に彰吾はあっけに取られてしまう。

 姉だという人を見る千聖の視線にも声色にも侮蔑が含まれているようだ。
 さっきまで涙を浮かべ不安そうに顔を曇らせ、可愛く啼いていた千聖はどこにも見当たらない。
 いつも千聖はお姉さんに対しこんな風に張り詰めた態度だったのだろうか…?実の姉なのに…?

 彰吾は妹から逃げたがそれは女になった妹から逃げたのであって、ただの妹であれば今だって可愛いとは思っている。血の繋がりもない妹だったが…それでもだ。なのに千聖と千聖の姉の間にはそれが何も見えない。

 ずい、と千聖のお姉さんが部屋に入って来てそして彰吾を見るといやらしい笑いを浮べた。エロスの笑いではない。蔑みや侮蔑を含んだような醜い笑顔だ。
 顔の造作も似ていないがそんな所も全然似ていない。千聖は自分で自分を貶めるような事を言っているが決してそんな醜悪な顔はしなかった。
 
 

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