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花に酔って 11

 雪がなくなりまだ寒い日もあるけれど仄かに気温が上がってきた。
 彰吾のデザインの仕事は順調でちらほらとデザインを見てみたいという連絡も入ってくるようになり、その他にも個人的に新築の家の庭の設計なども、近隣から依頼されたりと、きっとこれからもっともっと増えていくだろうと予測はつく。
 あんまり忙しくなってほしくないな…とつい千聖は思ってしまうのだがそれは内緒にしとかないと。

 「千聖、買い物行きましょう」
 「え…?別にいい」
 「いいじゃなくて!全然外出ないでしょう?今日はおばちゃん休みでしょ?」
 たまに彰吾はこうやって千聖を外に連れ出す。確かにそうでもされない限り千聖は外に出ないのだが…。
 「…そういえばお父さんが千聖に会ってみたいって言ってたな…忘れてたけど」
 「…そうなのか?」

 「ええ。ほら千聖ってあんまり出かけないから…この辺でも本当に人がいるのかって言われてるらしいです。ほら…この辺田舎だから…」
 彰吾が仕方なさそうに苦笑する。
 「ふぅん…。俺は別に幽霊扱いでもいいけど。…でも彰吾の親御さんとは会いたいかな…」
 小さく千聖が呟くと彰吾が嬉しそうに笑った。
 「酒持って行きますか?」

 こくんと千聖は頷いた。
 自分から他人に混ざりたいとは思わないけれど、彰吾を育てた人で血の繋がりもない彰吾を息子と言い、彰吾の為を考えている人だ。
 「じゃ電話しときますね」
 「…ん」


 日が暮れてから一緒に酒屋に行って酒を買い込み、彰吾の育った家へと向かった。
 「何歳から…?」
 「んー…5歳かな…。でも実の父親と親友でその前から連れて行かれてましたからね」
 「妹さんはもう高校卒業…?」
 「そう。大学は県内ですけど、離れてるので一人暮らしするみたいです」
 「え…?…そうなの、か…?」
 「はい」

 だったら…彰吾は家に戻っても…いい…?
 思わず千聖が考え込むと彰吾が千聖の顔を覗きこんできた。
 「…余計な事考えているんじゃないでしょうね」
 「だって……そしたら…問題ない…」
 「あのね!俺は千聖と一緒にいたいと思ったから出た、というのもあるんです。…あなたに出て行けと言われるなら出ていきますけど」
 「言わない」
 「なら余計な事は考えない。俺は千聖といたい」

 「………………彰吾…やっぱり行くのやめて家帰ろうか?」
 くっつきたい。
 「後で。折角千聖が出かける気になったのに!」
 「…つれない」
 「だって…俺嬉しいですからね。千聖がお父さんと会ってくれるって。ええと…嫁さん紹介的な?」
 かぁああっと千聖の顔が真っ赤になった。

 「な、な、な、何言ってるんだ!?」
 「いえ、そうなんですけど…気分的にそんな感じで…照れくさいしちょっと嬉しい…」
 「お前!言うなよ!俺の家は普通じゃないし、俺が初めっから女がダメだ、というのを知っているから普通に受け入れるけどこの辺じゃそんな事難しいだろう!」
 「勿論。分かってます。俺の心情的に、って事ですから」
 「……ならいいけど」

 ふぅと千聖は安堵の溜息を吐き出した。ホント心臓に悪い事を言う。
 …でもその実千聖も初めての付き合ってる彼氏の家訪問みたいな感じに思っていたので似たり寄ったりだとは内心思ってしまう。
 一緒に喋りながら歩いているうちに彰吾の家に到着。

 「千聖、寒くない?まだまだ夜は寒いから…」
 「大丈夫」
 距離もたいした事がないのに彰吾は心配性だ。
 「そっちが造園の方の事務所。家は奥ですからこっち」

 プレハブの前には見慣れたトラックが停まっていた。庭を頼んだときにこれで彰吾は来てたんだ。ほんの数ヶ月前なだけなのにもう随分経った気がする。
 色々な事があった。苦しかった事も…。でも今こうして彰吾が隣にいてくれるのが自然な事のように思える。すごく穏やかで心が満ちている。

 全部彰吾のおかげだ。ここに来たばかりの頃は本当に自分なんかもうどうでもよくて、消えてもいい位の気持ちだったのに…。
 たった一人の存在がこんなに大きく千聖を変えたんだ。
 …そしてそれは彰吾もなのだろうか?たった一度来た時に彰吾と会っていてそれで彰吾がウチの庭を特別に思ってそして千聖自身を特別に思ってくれるようになったのだから…。

 運命なんて信じないけれど、彰吾と繋がっていたという過去にそれが千聖が彰吾を想う免罪符のように感じてしまうんだ。
 「彰吾…」
 「はい?」
 「…ちょっと緊張する」
 ありがとうなんて照れくさくて言えなかった。
 「はは…大丈夫です。でも少しうるさいかも…」
 彰吾の手が大丈夫です、と優しく千聖の背中に触れそして奥にある彰吾の家の玄関を彰吾が開けた。
 

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