はのんのBL部屋

　「初めまして…長澤　千聖と申します」
　座敷に通されて千聖は正座して彰吾のお父さんとお母さんに向かって頭を下げた。
　「彰吾がお世話になっております」
　「いえ」
　「お父さん、これ千聖から」
　「……じゃあ飲みますか。酒イケルんでしょう？彰吾から聞いてますよ」
　にっと彰吾のお父さんが笑ったのに千聖も笑ってしまった。

　「お父さんはすぐ撃沈しちゃうでしょう？年ですから」
　「ああん？なんだと？」
　彰吾の軽口にあはは、と笑いが漏れた。
　「あの…こんばんは…。妹のエリカです」
　そこに妹さんが顔を出して来た。これが…。
　「…長澤　千聖です」
　「…すごい…芸能人みたいにかっこいい！…」

　千聖を見てそんな事を言いながらちらっと彰吾に視線を向けたのを千聖は見逃さなかった。
　彰吾は妹としてしか思っていないんだから気にする事はない、そう思っていてもつい千聖は過剰に気にしてしまう。イラっとしてしまうんだから手に負えない。
　「千聖、こっち」
　「あ、うん」
　座布団を彰吾に勧められて頷いて彰吾の隣に座った。

　そこからは男3人で飲み会だ。
　彰吾のお父さんがすごく彰吾を心配しているのが分かった。そして親として彰吾の事を愛しているのも…。
　いいな…と少しだけ羨ましくなってしまう。たとえ血の繋がりがなくともそこには親の愛情と子の信頼がある。
　だから彰吾は人に優しくなれるのだろう。

　「長澤さん…本当にありがとうございます」
　彰吾がトイレ、と席を外した時にお父さんが千聖に向かって正座をして頭を下げた。
　「な…んですか…？」

　「いえ、彰吾からすべて長澤さんのおかげだと聞いております。俺は彰吾がしたい事をすればいい、と家から出した。応援も勿論してやりたかったけど、何をどうしたらいいのかなんて全然見当もつかなかったんです…。同じ系列の業種といっても全然畑が違いますからね…。それを…全部…長澤さんが…」

　「いえ！俺がうちの庭を…あんな風に生まれ変わらせて貰った事に感動したんです。何しろ一番初めに来た時はお化け屋敷で玄関まで辿り着けるのかとさえ思いましたから…」
　「いやぁ…あれは酷かった！」
　「スミマセン…」
　そこは苦笑してしまう。

　「それが今はあんなに…庭を眺めるのが好きです。雪の風情も美しかった。朝に見るのも夕方に見るのも夜に見るのも…いつも光の当たり方、天候で表情が変わって飽きる事ないんです。そんな素敵な庭を造ってくれた彰吾に本当に感謝しているんです」
　「………ありがとうございます」
　ぐしっとお父さんが鼻を鳴らして目元を拭う。

　「きっかけは俺かもしれませんけど、息子さんはこれからもっともっと忙しくなっていきますよ」
　「そうなって貰いたいもんです。今はまだ長澤さんに頼ってると思いますけど」
　「いいえ。そんな事はないです。俺も彰吾がいてくれてよかったと思っておりますから。お父さんの元から息子さんを奪ってしまって申し訳ないですけど」
　「いやいや！子は親から旅立つもんですから！さ、さ…」

　くいと日本酒を勧められて千聖はお猪口で一気に煽る。
　「…いやぁ…本当に強いですねぇ」
　そう言うお父さんの顔はもう真っ赤だ。
　「もうそろそろお暇させていただきますね…」
　「いやいや！まだ！」
　そこに彰吾が帰ってきた。

　「彰吾、もうそろそろ…」
　「そうですね。お父さん限界でしょうから」
　まだ大丈夫！と騒ぐ彰吾のお父さんにまた来ますと約束して帰ることにする。酔っ払ったお父さんを座敷に残し、玄関まで見送りにきたのは彰吾のお母さんと妹さんだ。

　妹さんはやはりずっと彰吾を熱っぽい目で見ている。
　コレは俺のものだ！見るな！と言ってやりたい。
　………彰吾は妹としか思っていない、大丈夫だ、と分かっているのにどうしてもイラっとしてしまう。
　「あ…」
　靴を履いたあと千聖がわざとよろけるとすかさず彰吾が手を差し出してきて千聖の身体を支えた。
　「千聖？どうしました？」
　「いや…酔ったかな？」
　ちらと妹の顔を見て確かめると妹が悔しそうな顔を浮かべていたのに千聖は満足する。

　「千聖…？大丈夫ですか？」　
　「……ああ」
　そっと彰吾の袖を握ってそして離した。
　「どうも遅くまでお邪魔致しました」
　「よろしかったら是非またいらしてください。うちの人が嬉しそうにして…」
　「はい」
　にこやかに彰吾のお母さんに挨拶して彰吾の家を後にした。

　「千聖？どうしたんですか？酔っ払ってなどないくせに」
　「…そうだけど！」
　ぐいと彰吾の腕に抱きついた。田舎なここは夜になるとほとんど誰も外を歩いていない。
　「彰吾は俺のだ」
　「そうですよ？」
　くすくすと彰吾が笑った。知ってて聞いてるんだろう。こいつは。
　
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続きに拍手コメお返事です^^